インタビュー
バイナス 代表取締役社長 下間 篤 氏
- 投稿日時
- 2025/10/01 10:03
- 更新日時
- 2025/10/01 10:07
大半は仕様書がない仕事、AMR・協働ロボットで新規を狙う
バイナスはロボット自動化システム事業の"モノづくり"と、工業教育・職業訓練教材やロボット教育センターを通じた"人づくり"の両輪で産業用ロボットの発展に取り組む。新時代に不可欠なシステムインテグレータの裾野を広げる同社の下間篤社長に、足元の事業動向と将来戦略を聞いた。

――市場動向を含め直近の進捗を聞かせてください。
「1月から新年度に入り、第一四半期は前年の受注残もあり好調でした。ただトランプ大統領の関税施策など不透明感があり、4月以降は企業向け需要が影響を受けています。最近は落ち着きを見せてきており、必須課題である人手不足対応としてロボットシステム導入の動きは復活してくるでしょう。今期単体の決算としては世界的混乱の影響を受けた年でしたが、教育向け事業は安定しており、3年スパンで見れば一喜一憂するものではありません」
――中期計画はどうですか。
「2027年までは中期経営計画を立てています。産業ロボットのアプリケーションを基盤にしつつ、優位性のあるAMRや協働ロボットを伸ばしていきます。磁石を設置できずAGV化が難しい拠点もあり、リニューアルや新設工場ではAMRは必須です。重点領域は給食センター、航空機、物流倉庫のピッキングなど。これらの分野で成長を目指します」
「AMR単体の引き合いも多いですが、MoMa案件も増えています。運搬先での作業まで自動化したいというニーズが高まっているのです。ある製薬会社からは協働ロボットの可搬重量を超える25㌔の搬送依頼がありましたが、サポートロボとの連携で解決しました。大型・重量ワークの自動化需要は確実に増えています」
「また、工作機械周辺の段取り替えを協働ロボットとスケジューラーを連動させて自動化した例もあります。大型工場では数十台の工作機械が並び、素材投入や治具段取り替えなど散発的な作業は人が担っています。ここを自動化すれば人の作業は大幅に減る。20回のワーク段取り替えが必要な複雑工程にも対応しています」
――給食センターなどに注力されていると。
「調理そのものは現状ではコストが合いません。ただ、食器の洗浄工程は自動化できます。午後1時から4時までの洗浄作業を自動化すれば人員を削減でき、シフトも楽になります。PFI方式を活用して新設の学校給食センターの資金計画に、ロボットによる人件費削減効果を組み込むことで、有効な提案になります」
「川崎重工のSuccessorを使い、遠隔で調理する検証も進めています。カレーの攪拌は力仕事で、少子高齢化のなか人手では厳しい。カレー、肉じゃが、シチューなど品目が変わるなかで、とりわけジャガイモを潰さず混ぜるのは難題です。人間なら勘で力を抜き差しできますが、機械にとっては“押しつけずに混ぜる”制御が至難の業。まずは人間が遠隔操作で実現し、複数センターを遠隔オペレーションで集約、その知見をAI学習に生かします。将来的には人件費の安い海外にセンターを置く構想もあります」
「同じコンセプトで、すでにSuccessorを導入した例もあります。コンテナのカバーシート清掃では、4~5人がかりだった作業をロボット化でオペレーター1人に減らしました。この成果を応用し、おしぼり産業など過酷な労働の現場を順次置き換えていきたいと考えています」
■27年以降はヒューマノイドシフト
――経営戦略面は。
「我々は特定の主要顧客を持ちません。自動車産業の下請け構造に依存すれば価格競争に陥ります。毎年受注の半分は新規という戦略で、仕様書がないような案件を常に狙います。仕様書がないというのは、既存の定型化された自動化では解決できない“手つかずの課題”ということ。そこにこそ我々の存在価値があるのです」
「受注から検証までを支えるため、自社のAMRテストフィールドや協働ロボットセレクションセンターを活用しています。CDS子会社ゆえ仕掛段階で資金繰りが安定している点も優位です。後発ながら、他社が手を付けていない工程間搬送をAMRで切り拓き、27年までは優位性を確保できるはずです」
――2027年まではAMRを中心とした戦略ですがそれ以降は。
「教育関連から言うと、少子化ではありますが学校数は急減しません。未来を担う子どもたちのために、指導要領に基づいた教材を出し続ける必要があります。一方で企業向け戦略は27年以降に陳腐化すると覚悟しています。次の柱は二足歩行ロボットでしょう」
「工場の動線が設計に組み込まれた範囲ならMoMaで十分ですが、それを超える拡張には車両型では限界があります。ヒューマノイドなら、人間が移動できる場所は基本的に全てカバーできる。もちろんアプリケーション開発やインテグレーションは不可欠ですが、“人型であること”が次世代の柔軟性を保証するのです。仕様書なき現場を任せられる存在になるには、この進化が欠かせないと考えています」

攪拌ロボットアプリケーション
ROS2、生成AIロボットやVR溶接教材
小型協働ロボットアームを使った、世界的にデファクトスタンダードになりつつあるROSの最新バージョンであるROS2を中心にPythonのプログラミング言語と生成AIなどの最新の技術を取り入れる形で3年間の授業に利活用できる教材を提案する。「各メーカーのロボットを学んでも、就職先が別のロボットなら十分学習が生かせない。ROSなら汎用性がある」と下間社長。
また教習に危険が伴う溶接・切断をVRで安全に行えるトレーニングキットも投入した。
(日本物流新聞2025年9月25日号掲載)