1. トップページ
  2. インタビュー
  3. ナガセインテグレックス 代表取締役社長 長瀬 幸泰 氏

インタビュー

ナガセインテグレックス 代表取締役社長 長瀬 幸泰 氏

投稿日時
2025/09/09 13:39
更新日時
2025/09/11 13:45

AIと先進的センシング実装した次世代研削盤 

超精密加工機を提案してきたナガセインテグレックス。研削加工は要求される加工品質が高い反面、砥石の摩耗による不確実要素も大きく、熟練者の知見が必要なことが業界の課題だった。同社は研削中の砥石表面や研削抵抗をセンシングする技術と、AIで最適な加工条件を導き加工中も補佐する「AI研削盤」を探求。それらの技術を統合し現場実装する段階に達したとして、メカトロテックジャパン(MECT)で披露する。

――MECTの開催が近づきました。

「超精密門形成形平面研削盤『SGX-126α』と超精密ロータリマルチ研削盤『RG-700』の2台をお見せします。SGX-126αは、砥石軸内のセンサーで加工中の抵抗を測る『NPXスピンドル』で加工時の研削抵抗をリアルタイムで表示したり、AIによる加工結果の予測を行う『AI研削盤』仕様。RG-700は砥面観察システム『GRIDE EYE』を砥石カバー上に設置して、業界で初めてクーラントを使った実加工中の砥面をリアルタイムで観察する。これまでナガセが温めてきた非熟練化や真の自動化を、お客様の加工現場にお届けできるフェイズに達しました」

――今まで貴社は研削状況を可視化する様々なセンシング技術と、超精密加工を非熟練化するAI技術を開発してきたわけですが、いよいよ現場実装が叶う。

「その通りです。超精密加工機を開発して約40年。当初から本質的な目的は加工システムの転写性による高い要求精度と加工品位、生産効率の実現でした。ところが研削砥石は不確実性が高く、その転写性はドレス条件や研削条件、砥石選定など『靴の上から足を掻くような』、ある種もどかしい条件設定を挟んだうえでの転写だった。マシニングは自動化が進んでいく中で研削は機械から人が離れられず『10年経って一人前』の世界でした。そこで自律的に考え熟練技術者のように五感を働かせ適応制御する機械を開発すべく、マシンの絶対運動特性と繰り返し再現性を高度化し続ける一方、センシングやAIを磨き要素技術として少しずつ発表してきた。MECTではそれを統合的にインテグレートできる域に。まるで機械に熟練者が入ったかのような、センシングツールの情報を元にAIが自ら判断して加工条件や結果を予測する様子をお見せします」

――40年来追い求めた技術が結実した。一方で0.1ナノ(原子レベル)の切込みが可能な超精密非球面加工機を開発しています。AI研削盤も形になり、今後の開発はどこに向かうのでしょう。

「センシングしたい要素はまだまだあり開発も進んでいます。また我々は『超精密加工機は刃物を選ばない』と数十年前から業界に発信してきました。つまり様々な加工原理に対応できる機械であるということ。昨年のJIMTOFでも超精密微細加工機「N2C-520」(研削のほか微細なミーリング、レーザー加工に1台で対応するナノマシン)を参考出品しました。詳細は取り組み中ですが、研削・ミーリング・レーザーのような既存のカテゴリにとらわれない加工原理の機械を目指します」

――想像が及びませんが、砥石や刃物を使わない新たな加工方法ですか。

「その通りです」

■導入後に進化する機械

――国内の設備投資意欲が冴えません。

「受注は2年前頃から軟調で、なかなか戻りません。我々はOPTIMUM VALUE CREATOR、すなわち有益な価値を創造してお届けするポリシーのもと、日本のお客様が儲かる加工システムを提供してきました。生産性が上がり、誰にもできない加工品質が継続的に実現でき、競争力が高まるシステムです。ただ2000年頃から、ともすれば我々の最新鋭の機械に国内企業より資本力のある海外企業が顕著に興味を示すように。私も懸念を抱いています」

――日本と海外の最新の機械に対する投資スタンスは差があると言われます。

「設備はイニシャルコストのみではなくトータルコストで考えることが重要。変化の激しい世の中ですから、10、15年後を見据えて価値が陳腐化しない設備を選ぶべきでしょう。我々のマシンは導入後も進化します。マシンを導入された後に新たに開発されてくる様々な技術要素をビルドアップすることが可能で、それは機械が持つ絶対運動特性や剛性、温度特性、振動特性、繰り返し再現性などのポテンシャルが極めて高いから。ぜひ長い目で見て、人材育成だけでなく卓越した設備への投資も等速で回して頂きたいと思います」

――貴社は時代を先取った機械を開発する関係上、新技術に敏感です。イノベーションの芽として今後に期待が持てる分野は。

「期待も込めてキーだと見ているのはクリーンエネルギー。中でもペロブスカイト太陽電池は材料が他国の資源に左右されず、日本の研究者が開発した技術です。ペロブスカイトはフィルム状。かつて大型液晶TVの高精度な光学フィルムの製造技術が、リチウムイオン電池の正極・負極の塗布に用いられました。同様にこの技術がもしペロブスカイトへの機能性流体の塗布に応用されれば、我々の超精密加工機が得意な領域が液晶TVから連綿と続く…と、期待も込めて注目しています」

SGX-126α_機械写真.jpg

MECTでは超精密門形成形平面研削盤「SGX-126α」を『AI研削盤』仕様で見せる


超精密は超能率


昨年のJIMTOFに続きMECTでも「超越精密」という概念を掲げる。これはナガセインテグレックスが提唱してきた超精密という言葉が一般化した結果、必ずしも同社が考える超精密加工機の価値と一致しなくなったからだ。「超精密加工機は高生産性の加工機だとずっと申し上げていた。ただ超精密加工は精度・品質はすごく良い反面、能率はそうでもないという印象が定着してしまったんです。そこで超精密加工の本質は誰にもできない加工品質を誰にもできない能率で達成することだということを、超越精密という言葉で伝えます」





(日本物流新聞2025年9月10日号掲載)