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インタビュー

エンシュウ 代表取締役社長 鈴木 敦士 氏

投稿日時
2025/09/15 09:00
更新日時
2025/09/15 09:00

共同開発で切り拓く新市場

構造転換が迫られる日本の製造業で、エンシュウは「共同開発型機械製造業」への挑戦を進めている。部品加工事業の強化を通じて信頼を獲得し、IoTや非切削分野にも領域を広げる。汎用機頼みから脱却し、多軸展開で再成長を狙う鈴木社長に、現状と展望を聞いた。

――工作機械業界は軟調ですね。

「数字上は回復の兆しが見えるものの、現場の感覚は厳しいものです。特に自動車関連の投資は停滞しており、待っていれば回復するという時代ではない。ものづくりの構造そのものが大きく変わる中で、工作機械メーカー側も自ら変わらねばという局面に入っていると感じます」

――貴社の状況も同様ですか。

「はい。当社は長年、マシニングセンタ(MC)を中心とした汎用工作機械を主力としてきましたが、韓国・台湾・中国・インドのメーカーの台頭で、価格競争がますます激しくなっています。精度や制御面でも十分な品質に達しているものもあり、汎用機だけでは将来的に立ち行かなくなると判断しています」

――部品加工事業は好調ですね。

「おかげさまで堅調です。部品加工部門では、主力であるヤマハ発動機様の2輪車やマリン関係などが欧米市場を中心に好調です。売上高は100億円未満から150億円を超える規模が見込めるところまで成長してきています」

――部品加工事業の強みは。

「単なる加工にとどまらず、自社で設計・開発した自動化設備を用いて生産している点です。この生産ライン自体が、外部のお客様にとってのショールームの役割を果たしています。例えば、実際に稼働する生産ラインを見ていただくことで、設備としての完成度、技術力、信頼性などが言葉以上に伝わる。ある種、提案に説得力を持たせる最良の営業資料となっています」

「さらに言えば、自ら使い、自ら証明する姿勢こそが、現在、工作機械事業で力を入れている共同開発型機械製造業における信頼の礎にもなっています。実際に見ていただくことで、『一緒にやろう』と声をかけていただけるきっかけになっていると感じています」

■共同型開発で新市場に切り込む

――部品加工事業への投資が工作機械事業側にも波及するということですね。

「まさにその通りです。私たちは部品加工の現場に自社開発の自動化設備を導入し、日々使っています。この試みによって、生産性が向上するだけでなく、機械そのものの完成度を高めていける。その成果をお客様との共同開発案件に反映できる。つまり、部品加工の現場は当社にとって『試験の場』であり『実証の場』でもあるんです。ここでの蓄積が、工作機械事業の競争力につながると考えています」

――具体的に、共同開発型機械製造業とはどのような取り組みでしょうか。

「実は全く新たな試みというわけではありません。過去には、トヨタ自動車様とレーザークラッド加工機を、日産自動車様とはホーニング機能付きMCなどを共同開発してきました。こうした20年以上にわたる自動車向け専用機の開発ノウハウをベースに、医療や半導体、食品業界など、さまざまな分野への応用も視野に入れています」

――歯科向けの装置を昨年発表されましたね。

「はい。歯科材料・機器を手掛けるジーシー様と5年にわたり共同開発してきた歯科加工機が量産に入りました。最大21本のセラミックブロックを自動で加工できる5軸加工機です。これまでも同様の製品はありましたが、工作機械メーカーが手掛けるのはおそらく初。実際、歯科技工士の方からも『手修正が不要なほど高精度』と、加工品質や耐久性で高く評価されています」

――歯科向け以外の展開も既に着手されている。

「もちろんです。実際に、検査工程や工場内物流の自動化など、非切削分野への相談も増えています。また、半導体分野に対しては同業界出身の人材を採用し、専門チームを立ち上げるなど、開拓を進めています。ただし、半導体業界はクローズドで時間もかかる。粘り強く取り組んでいきます」

――IoT対応を担う子会社も立ち上げられました。

「22年にエンシュウコネクティッドという子会社を設立し、IoTやAGV/AMRなどを使ったスマートファクトリー構築を支援しています。社員は25人ほどに増え、売上も初年度の6500万円から今年は5億円を超える見込みです。特に食品・化粧品業界など自動車以外の業種との接点が拡がっており、10億円規模を視野に入れています」

――最後に、読者や取引先へのメッセージをお願いします。

「工作機械の技術だけでなく、20年以上の自動車向けの自動化ノウハウ、さらにはレーザー加工やIoTなど、必ずお役に立てることがあると思います。まずは『こんな加工ができる機械は作れないか』という相談をいただきたい。一緒に新たなモノづくりを創っていけたらと思っています」

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力を入れる部品加工の現場は、最新の取り組みを実証する場でもある


AI活用が社内表彰


エンシュウは毎年、社内表彰を行っている。今年は5件が表彰され、そのうちの1件がAIを活用したもの。議事録や見積もり、プログラミングの自動作成などに活用されており、式典ではAIによる同時通訳を活用しベトナムにいる工場長がベトナム語でプレゼンテーションを行った。鈴木社長は「若手が取り組みをリードしてくれている。頼もしい」と期待を示す。





(日本物流新聞2025年9月10日号掲載)