インタビュー
バイストロニックジャパン 代表取締役 宮島 弘之 氏
- 投稿日時
- 2025/09/12 09:00
- 更新日時
- 2025/09/12 09:00
板金加工機発祥の地はスイスやドイツ
板金加工業界をリードし、とりわけファイバーレーザー加工機とスマートファクトリーの構築に強いスイスBystronic AG(社員3268人、2024年末)。2016年に設立したその日本法人を訪ね、日欧の板金加工機メーカーの優劣を聞いた。

顧客を連れて全国のユーザー工場を飛び回る宮島弘之社長。ストレス解消法は週末、自宅近くで行う早朝の10㌔のウォーキング。「3年くらい前から始めました。本当は2日ともやりたいのですが、土曜か日曜に2時間半くらいかけて歩きます。人は足腰から年を取るって言われますから。歩いているときに色々思いついたりもします」
――宮島社長はアマダ、トルンプにそれぞれ15年ほど勤務し現職に就かれました。いずれも日本、ドイツ、スイスを代表する大手鍛圧機械メーカーです。国によるメーカーの優劣をどう見ていらっしゃいますか。
「私が欧州メーカーで働き始めた時に一番最初に感じたことは、板金加工機発祥の地はやはりドイツ、スイスをはじめとした欧州地域だということ。7月に開かれたプレス・板金・フォーミング展『MF-TOKYO』には海外メーカーも集まりましたが、ドイツで開かれるユーロブレッヒ(隔年開催の板金加工見本市)を見に行くと、そこに出展するすべての加工機が4、5年先に進んでいるのではと感じることが多々あります。レーザー加工機やプレスブレーキに限らず、バリ取り機や周辺装置を含めてです。日本の板金業界のトップユーザー様は必ずと言っていいくらいユーロブレッヒを訪ねます。そこで最先端の加工技術、加工機を見ておかないと、3年後、5年後にどんな機械を導入すればよいか想像ができないからとおっしゃいます」
――日本法人が設立されて約9年。日本でのビジネスは順調ですか。
「私が入社した2023年7月から2年ほど経ちました。バイストロニックグループは日本を戦略市場と位置づけています。日本市場はA社さんのホームグラウンドですが、板金加工機ではドイツ、アメリカに次ぐ市場規模があります。当社グループは日本のモノづくりを改めて学ぼうとしており、日本で成功しなければ他国でも成功はできないと考えています。当社の知名度は正直、まだ高くはありませんが、私の入社前に比べると、安定してお引合いをいただけるようになりました」
「我々のもう1つのミッションは日本のお客様の機械や機能の要望を聞き、それを正確に本社にフィードバックすることです。当社の機械は生産性が飛び抜けていますから、最新機を導入していただければ、そのお客様は少なくともこの先5年から10年は競争力を維持できます」
■切断速度を劇変するミックスガス
――貴社のいち押し製品は。
「1つは出力30㌔ワットのファイバーレーザー加工機『ByCut Star Fiber 3015 30kW』です。それに搭載しているミックスガス技術はベースとなる窒素の中に酸素を少しだけ混ぜます。これにより中厚板の切断速度が劇的に変わります。たとえば軟鋼12㍉の板厚なら切断速度12・2㍍/分と弊社4㌔ワットCO2レーザーにおいて、軟鋼1・0㍉の板厚を切る(9・5㍍/分)よりも高速で切ることができます。もう1つは加圧能力80㌧、1500㍉幅の小型のプレスブレーキ『ByBend Star 80/1530』で小型の脱着式ロボットMBCが付けられます。ローラーの付いたMBCは人の手で運べ、プレスブレーキを設置できるスペースがあればその手前に置くことができます」
――貴社が有望と捉えるマーケットは。
「私は日本の責任者なので当然、日本のマーケットが最も重要です。日本で成功すれば中国や東南アジアでも成功するはずです。いま日本の製造業はとても苦しい状況にあると思います。給与を上げる必要がある一方、熟練技能者は退職し、新入社員を確保しにくい。海外労働者に手伝っていただかねばならない状況下で、これまでと同等のモノづくり、つまり高い品質、生産量をキープしなければなりません。そんな状況下でもしっかりと利益が出せる機械を常に提供したいし、それが当社にはできると考えます」
――ファイバレーザー加工機、プレスブレーキ以外に貴社はスマートファクトリーの提案も強いそうです。
「私はバイストロニックに転職する前にIT企業でスマートファクトリーに絡む生産管理ソフトや見積りソフトを販売していました。その時の経験が生かせています。インダストリー4.0が提唱されたのが2011年頃なので、もう14年経ちますが、本当の意味でスマート工場の領域に到達できたお客様はまだないと思います。その概念は板金工場の中だけの話ではなく、物流やお金の流れを含めすべての周りの環境が繋がって初めてモノづくりを効率化できます。まっさらな新工場でゼロから設備を導入するなら最新のIoT機器を揃えられると思います。しかし現実は難しく、ほとんどのお客様は多種多様なメーカーの機械が混在するなかで自動化を進めています。ですから各機械メーカーが機械に組み込まれた情報をオープンにしないと完全なスマート化は実現しません」
ByBend Star 80/1530とその手前に接続した着脱式ロボットMBC
欧州機械に根づくDIY
日欧の板金加工機メーカーの間の大きな違いはサービス面にも見られる。日本のユーザーをメーカーのエンジニアが訪問するのにいくら近くても30分、1時間はかかる。それに対して欧州のユーザーはその時間があれば機械を自分たちで復旧しよう、となるという。「はじめから、ユーザーさん自らが復旧しやすいような機械のつくり方になっているからです。DIYの考え方が欧州機械には根づいている」
(日本物流新聞2025年9月10日号掲載)