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インタビュー

中村留精密工業 代表取締役社長 中村 匠吾 氏

投稿日時
2025/09/11 09:55
更新日時
2025/09/11 09:59

忙しいお客様に世界最高の提案をする

新工場「MAGI」が本格稼働し、搬送をAGV化して月480時間の工数を削減した中村留精密工業。生産能力35%向上を掲げた取り組みが進み、今までより高い山を迎え撃てる体制が整いつつある。工作機械は需要の山谷が大きい産業だが、中村匠吾社長は景気に左右されない成長を目指すとし、「いかなる環境にも設備投資をするお客様はいる。そこに世界最高の提案をすることが重要」と語る。

――新工場「MAGI」の稼働状況は。

「昨夏にユニット合わせ等のASSY工程をMAGIの2階に移行し、自動倉庫と3台のAGVを導入して運搬に要していた月480時間の工数を削減しました。元は人が部品やユニットを運んでいましたが、部材供給からユニットの自動倉庫への格納、さらには工程間搬送まですべてAGVで自動化しています。作業者が組立に専念するうえで運搬は阻害要因で、特に我々が重視するキサゲはリズムが重要。ただ経験に照らすと一部でも人手搬送を残すと動線が乱れ、結局は人手頼りから脱せない。例外を生まないため工程間搬送も自動化したのがミソです」

――どうやってそれを実現した。

「誰でも使えるシンプルなUIのソフトを自社開発しました。生産計画から必要な物を判断し、ソフトで工程間の物の手配やスケジューリングを行います。自動化を提供するのが我々の仕事。立ち上げの重要性は理解しており、バグ出し期間を通常の倍くらい設けたことが安定稼働につながりました。自動化は経営側の夢でやると失敗する。トラブルは『起こるもの』として構えなければ。我々は皆で決めた厳しい基準をクリアするまで知恵と工夫で作り込みます。MAGIは現在もアップデートしており、最終的に生産能力を従来比35%高める目標を立てています」

――生産能力が高まった。あとは次のピークタイムがいつになるかですね。

「金額ベースか機械の生産スペース的な意味かで違うため難しいものの、間違いなくもしMAGIが稼働していなければ今も生産はかなり一杯になっていた。まだまだ課題はあるものの、忙しくなりつつあります」

――景況感は悪くない。

「米国はこの1年、想定通りの推移でけっこう忙しい。欧州はもともと我々が強い市場で、市況が厳しい中でも決して計算できなくはない。中国、台湾、インドは意識的に開拓している背景もありますが徐々に増えています。国内も自動化や多品種などレベルの高い領域は十分チャンスがある。そもそも、我々は景気に左右されない体制を目指しています」

――工作機械は需要の山谷が大きい産業ですが。

「ディズニーランドと地元の遊園地では同じジェットコースターでも高低差が違う。だから地元の遊園地の高低差を目指そうと社内で言っています。まず変動を抑え、その中で成長していくのが次の戦略です。それができれば安定的に投資を続けられるし新製品を出してまた成長できる。中村留は過去、変動幅が大きい会社でした。それを人為的に変えるのはものすごく難しいものの、大事なのは忙しいお客様に最高の提案をすること。リーマンショックでも機械を買う人はいたわけで、そこへ世界最高の提案をすれば絶対に(売上は)増える。そのためにも一業種一本足打法はしない。同じ業種の顧客ベースに留まって安心せず毎年(ベースを)変える。それでいてお客様を大事にし、メーカー責任も果たします」

――中村社長が考える世界最高の提案とは。

「我々は機械・ソフト・自動化の3分野でトップを目指しています。このトライアングルの中心が融合領域で最も価値が高い。1つ欠けても駄目で、3つ揃って初めて良い物になる。そのために必要な要素を今も揃え続けており、自動化は『RoboSync』、ソフトでは『Protona』が一例です。機械の構造的進化の余地も皆さんが思う以上にまだまだある。近年投入した新機種も世界最高ランクの加工能力と精度を目指したものですが、より精度を高めたり難しい材料に挑戦するなどレベルアップの材料には事欠かない。色々なプロジェクトが社内で進み、社員一人一人の頭の中にまだ山ほどアイデアがあります」

■メーカー間に橋を架ける

――工具の破損や摩耗を検知するソフト「Dr.Tool」はメーカーを問わず搭載できます。他社製機械にも搭載できるソフトはユニーク。その狙いは。

Dr.Toolは実際、他社の機械に搭載する引き合いがすごく多い。いわゆる『囲い込み』は個人的にはナンセンスだと思います。我々も(Dr.Toolの開発に)億単位を投資しており、別の会社がまた費用を投じるのはもったいないですよね。別の領域にリソースを割いて別の有用なシステムを開発してもらう方がお客様からすれば価値があるわけで。ソフトはトレンドがあり、だいたい皆で一斉に同じものを開発してJIMTOFでもよく似たソフトが溢れます。個人的にそれが疑問でしたし、ある大学の先生に『不思議だ。もっと手を取り合えないのか』と言われたことがずっと頭に残っていました。Dr.Toolは我々が開発しましたが、『中村留の名前は消して良いのでオプションとして資料に入れてほしい』と他社にお願いしています。他社製の機械のオプションにするための共同開発も進行中です」

――今後も対象メーカーを問わない機能やソフトを強化しますか。

「もちろんすべては開放しませんが、逆に開放すべき領域もある。そもそも中村留は規模拡大を第一に目指していません。それより世界最高価値の製品と現場の負担を削るソリューションをセットで提案したい。規模よりやっている内容が重要です。中村留は面白いことをやっている、喉から手が出るほど欲しいとお客様に思ってもらえる状況になればいちばん嬉しい。それが私たちの想いです。残念ながら機械に付随する機能だけでは影響範囲が狭すぎる。我々の機械を購入したお客様しか現場の負担を削れないんです。それより圧倒的に台数の多い他社製の既存機に進化してもらわないといけない。Dr.Toolはアップデートを続けますし新たなソフトにも取り組んでいます」

――貴社の開発動向を見ていると、既存の工作機械に搭載できるソフトが次々と、しかも多くは無償で登場するようになっています。

「テスラやWindowsiOSを見て、購入後も機械がアップデートできれば面白いし価値が高いと思いました。更新が早いと言われますが、もっと早くしたい。例えばソフトウェア業界はもっと更新が早いわけで、逆に現状を肯定すると遅くなります」

――業界も変化が加速しています。

工作機械業界は今後も再編が進み、大企業はより大きくなるでしょう。その時どう戦うかが重要で、専業メーカーは集中戦略とアップデートを続けないと生き残れないと思います。進化論では環境変化に適応した者が残るわけで、種として強いというより自分たちの良い部分を抽出して変化に適応した会社が存続する。コアのバリューを体現してこれまでのお客様にも『中村留は良いなぁ』と思ってもらいながら新しいお客様もしっかり獲得できるやり方を、皆で作っていきます

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新工場MAGI2Fでは部材を夜間にAGVが作業者の元に搬送。完成したユニットはAGVが自動倉庫へ格納したり、次の工程へ運んだりして人手搬送をなくした


複合加工のプロトナる


6月に発表された複合加工機のための新たな対話型プログラムソフト「Protona」。対話型のソフト自体は従前から存在したが、中村社長は「慣れればものすごく早いが慣れるまでが使いにくかった」と実感を込めて語る。例えば空欄に直径・半径どちらを入力すべきかなど判断に迷う要素があった。Protonaは複合加工機特有の多系統の工程設計を直感的に行うことができ、多くの数値が自動入力され上下タレットの工程をドラッグ&ドロップで編集できる。「複合加工機にすべて投入している会社だから作れた」とする。



(日本物流新聞2025年9月10日号掲載)