インタビュー
三井精機工業 代表取締役社長 那須 要一郎 氏
- 投稿日時
- 2025/09/10 16:09
- 更新日時
- 2025/09/10 16:14
さらなるサービス力強化で「三井ファン」増やす
「精度の三井」として、国内外における付加価値の高いモノづくりを下支えしている三井精機工業。この7月には3年間に渡り同社を力強くけん引した川上博之氏が会長に就任。新たに社長職に就いたのは銀行出身の那須要一郎氏だ。金融畑から様々な企業を見定めてきた那須新社長に、同社の強みとこれからの成長戦略について聞いた。

――社長に就任されたご感想をお聞かせください。
「大役をお引受けしてしまったな、というのが率直な感想です。当社は機械メーカーですから、工学部系など、ものづくりに一家言ある方がトップに相応しいのかもしれません。私は当社に携わってからまだ7年。永年ご愛顧頂いているお客様に、大きな期待を寄せて頂いていることも踏まえると大変だな、と感じつつ、大きなやりがいも感じています」
――銀行(三井住友銀行)出身とお聞きしています。
「銀行では人事、企画、営業に携わってきました。そこで長年に渡って培ったのは物事を俯瞰した上で見極める『バランス感覚』です。すごく感覚的なもので表現が難しいのですが、なんとなく方向性が間違っている、おおよそ正しい道を歩んでいる、といった判断にはある程度自信を持っています」
「ただ、そういった感覚をミクロン単位のモノづくりをしている現場に持ち込む気はありません。『下町ロケット』のように自ら現場に入って一緒に汗をかく、といった社長には到底なれませんが、私の役割は当社の優れたリソースを適材適所に配分していくことと、問題が生じた際に現場の意見を集約し、総合的に判断しはっきりとした方向性を導きだすことと考えています」
――那須社長から見た貴社の強みは。
「やはり『とんがったモノづくり』ができる、という点に尽きます。高剛性かつ高精度で、お客様のご要求に応じたオンリーワンの製品が作れる、これが強みです。当社の工作機械は数十年に渡ってご使用頂いているケースが大半で、お客様とも長いお付き合いになります。そこで頂いた評価が指名買いやリピートにつながり、製品の競争力維持の源泉となっています。さまざまな製品がコモディティ化していく時代において、工作機械もコンプレッサも『三井ファン』と呼ばれるお客様がおり、根強く支えて頂いているのも大きな強みです」
■北米に合った機械づくりを
――現状、課題と感じている点は。
「これまで当社のモノづくりは無駄な部分も多く、結果として財務面があまり良くありませんでした。それが3年前、川上(=博之前社長・現代表取締役会長)が自ら先陣に立って、現場のカイゼンを中心とした構造改革を推し進めました。その結果、バランスシートや損益計算書の上でもかなり良くなってきました。生産における無駄がなくなりつつある現状、今後はいかに『三井ファン』を増やしていくのかが課題です」
――そのための施策は。
「まずは既存のお客様へのサービス拡充が重要と考えています。そこをライバルに取られてしまっては何の意味もありませんから。工作機械もコンプレッサもご購入いただいたお客様が不自由なくお使い頂けるような、手厚いサービスを徹底していかなければならないと考えています。川上(会長)は『1台目を売るのは製品力、2台目を売るのはサービス力』と常日頃言っていますが、まさしくその通りで、サービスマンの技術力と対応力を今後さらに向上させていきたいと考えています」
――今後期待している市場は。
「永年当社製品をご利用頂いている国内市場を大事にし、さらに伸ばしていくことはもちろんですが、大きな伸長を期待するマーケットは北米です。航空・宇宙の分野は引き続き伸長が見込めますので、ライバルとなる欧州メーカーといかに差別化を図れるかが重要になると考えています。欧米の機械系、航空系展示会への積極的な出展から、WEBのアクセス分析といった細かい部分まで気を配って、営業活動に反映させています。幸いにも当社の北米現地法人社長が積極的にマーケティングを行い、当社の尖った機械を売っていく道筋を作ってくれています。ですから、『北米で売りやすい機械』をしっかり作りこんでいかなければなりません」
――アジア市場はどう捉えていますか。
「東南アジアは圧力容器規制の問題がクリアできるので、コンプレッサはまだまだ市場開拓の余地があると見ています。見逃せないのはインドですね。航空系を中心にすでに市場開拓を進めていますが、現地の代理店を中心とした展開が多く、商流的に難しさを感じるところも少なくありません。ちなみにこれまで、さまざまな銀行がインド進出に挑戦していますが、ことごとく跳ね返されています。だからこそ、現地で成功したマルチスズキの凄さを改めて感じます。本格的に商売するなら、本気で歯を食いしばって取り組むくらいの覚悟が必要なのかも知れません」
他社同クラス製品より高い吐出量を誇るコンプレッサーにかかる期待も大きい
持続的な成長を目指して
社長という役割は「駅伝のランナー」という那須社長。「ずっと走り続けられる会社にするためのタスキを渡していく大切な役割」と話す。
「(川上)社長と(那須)副社長という立場が、会長、社長になっただけで路線は基本的には変わりません。私の役割は任期中に持続的な成長に繋がる新たな種を蒔くこと。次代の経営者をちゃんと育てることが重要だと考えています」
(日本物流新聞2025年9月10日号掲載)