インタビュー
日本電機産業 代表取締役社長 出水 悠介 氏
- 投稿日時
- 2025/08/22 11:39
- 更新日時
- 2025/08/22 11:46
日本の電力供給支えるキュービクルのパイオニア
効率よく作り、人材を大切にする
電力会社から送られる高圧の電気を、施設や設備内で使える低い電圧に変換(変圧)するキュービクル。多くの電気を必要とする商業施設や店舗、工場やオフィスビルなど様々な施設に設置されている。「最近はEV普及により急速充電器に必要な設備としてニーズが高まっている」という日本電機産業は、1955年に試行錯誤の末、キュービクルを開発し、現在に至るまでキュービクル専業メーカーとして業界トップクラスのシェアを誇る。

2面体のキュービクルの前に立つ出水悠介社長
本社=大阪市北区
商業施設やマンション、オフィスビルなどの屋上や駐車場に並ぶ金属製の函体。発電所から変電所を通して送られてくる6600ボルトの電気を敷地内に引き込む高圧受電設備(キュービクル)は、電気インフラを支える重要な設備だ。日本電機産業は独自の技術を確立し、キュービクルを開発。省エネ・省コストが叫ばれる中で進化してきたキュービクルの歴史とともに発展してきた。
「近年では、電気自動車について関心が高まり国内外の自動車メーカーなど急速充電器の設備としての需要もあります。他にもコンビニや大型スーパー、工場など幅広く納入しています」(出水悠介社長)。
「病院や学校でも冷房をつけるとなったら必要になるのが受電設備。なにかに設備投資すれば動かすための電気が増え、キュービクルが必要に。あらゆるものが電化していく中で、上向きに成長してきました。景気の影響も多少は受けますが最近はバブル期のキュービクルの更新需要も増えてきています。また脱炭素に向け、国がキュービクルの主要部品である変圧器の高効率化を進めており、来年に規格変更。それに伴い部材価格が高騰するため、その駆け込み需要で問い合わせが増えております」と堅い事業基盤を語る。「太陽光発電などの再生可能エネルギー関連のキュービクルにも注目が集まっています」。
厳しい認定基準に適合した「認定品」として最大設備容量4000kVAまで取得している老舗の専業メーカーとして、標準品をベースに、ニーズに応じたプラスαのオーダーに対応する。出水社長は強みを「短納期出荷」と話す。在庫は持たず、出荷日が決まってから作り始める。製造拠点は大阪府堺市にあり、全国からよせられる要望を一手に引き受ける。工場では約70人が働き、敷地面積は約1万2000平米。「創業当時から『小さな設備・少ない人数・少ない仕掛かり、そして不良のないリードタイムの短い製造工程を確立する』ということを基本思想としています」。工場が複数あると、部品の調達や工数が増えるため1拠点に集約してムダを省き、製品は部品項目別にユニット化し製造時間を短縮する。
多くの受注に応えるための作業効率化を支えるのが室本鉄工のナイル印の卓上電線ストリッパー「CSTシリーズ」だ。「導入時期は分かりませんが、30年以上前から同シリーズを使い続けています。修理や更新しながらライン増設時にも新たに導入しています」。
重視するのは耐久性。電気を一切使わない半自動のエアー工具は「たいていのことは修理で対応可能。交換するのはすり減る替刃くらいです」と言う。線を挿入して足元のスイッチを踏めば電線を保持し替刃台がスライドして電線を脱皮。大掛かりな設備投資をすることなく、だれでも簡単に使える。作業効率を一層上げるために建屋、多種の電線ごとに用意し並べる。「手作業で皮むきしていた時代には絶対に戻れません」と信頼を寄せる。
多数の配線作業を効率化する室本鉄工のエアー工具「ナイル卓上ストリッパ―CSTシリーズ」
■新卒が離れない会社
短納期や効率的な供給能力に加え、出水社長は自社の強みを「親切な人が多い」と率直な言葉を付け足した。「工場見学に来られる方によく、挨拶が明るくて気持ちいい工場ですねと言っていただけるんです」と相好を崩す。
社員採用は、新卒採用のみ。毎年数名ずつ採用しており離職者が少ないため中途採用の必要がないという。新卒世代から70代を超えた社員まで幅広く働いている。
工夫している点を尋ねると「入社1年は営業や技術、経理部門問わず全員必ず工場配属で、製造ラインに携わります。各ラインをすべて一通りしてから営業または業務部などに配属となります。自社製品の知識に自信をもってもらいたいですから。独自の教育方法かもしれませんね」。その他、もちろん電気工事士など必要な専門資格も会社でサポートする。
作業効率を追求し、建屋や電線の種類別に数十台のエアーストリッパーを並べる
今後は「まだまだキュービクルは伸ばせる事業で、より作業効率アップを目指したい。そして一番は社員の満足度をあげたいですね」と福利厚生の充実や賃貸・持ち家問わず家賃補助するなど力を入れる。
限られたスペースを有効的に使うためにキュービクルのコンパクト化のニーズは多い。「例えば、マンションだったら駐車場を10台分設けるか、11台分設けるかで収益が変わります。なるべく電気設備を小さくしたい、それは当社が応えられる部分です。お客様の要望に出来るだけ対応し、キュービクル専業メーカーとして満足いただける製品をお届けします」と自信を見せる。
蓄えた技術とそれを活かす人材。進化してきた電気インフラの歴史とともに築き上げた好循環で、日本の供給網を陰で支える。
(日本物流新聞2025年8月25日号掲載)