インタビュー
兄弟机械商業(上海) 久田 敏生 董事長・総経理
- 投稿日時
- 2025/08/07 16:00
- 更新日時
- 2025/08/07 16:17
ヒューマノイドの加工相談が増加中
ブラザー工業の中国現地法人「兄弟机械商業(上海)」は、中国国内において工作機械の販売を手がける。激変する中国市場で、モノづくりの根幹をなすマザーマシンの製造と販売の最前線に立つ同社の董事長・総経理(代表取締役CEO)・久田敏生氏に、中国モノづくりの現状とこれからを聞いた。

久田敏生董事長・総経理
――現在の中国市場や深圳の市場環境をどう見ていますか?
EVやPHEVを中心とする自動車産業では、深圳ゆかりのBYDなど中国メーカーの存在感が圧倒的に高まっています。最近ではヒューマノイドや犬型ロボットなど、新たな産業領域にも勢いがあります。深圳では話題のヒューマノイドへの期待感もあり外骨格の曲面を加工する5軸機の引き合いも頂いていますね。BYDは中国国内のみならず、輸出も順調に拡大しており、今後も積極的な設備投資が期待されます。
一方で、中小企業の多くは利益の圧迫により投資に慎重です。支払い条件の悪化などが連鎖的に波及し、大企業から中堅・中小企業へと悪循環が広がっています。その結果、キャッシュに厳しい企業では設備投資が抑制され、「使ってから払う」といった極端な取引形態も一部で見られるようになっています。
――日本の工作機械メーカーへの期待は?
価格に関する要望は常にありますが、中国メーカーが日本製の半値、時にはそれ以下の価格で機械を提供してくる状況では、正面からの価格競争には限界があります。にもかかわらず、当社のような日本製の工作機械を選んでいただけるのは、「性能」や「品質」に対する評価の証だと受け止めています。
なかでも「製品の安定性」は、中国企業から頻繁に求められるポイントです。ただ、この「安定性」が何を意味するのか、どの程度の水準が求められているのかを明確に把握することが、今後の製品開発や提案力強化につながると考えています。
5軸機Uシリーズ
大型機Wシリーズ
――日系メーカーが中国市場で価値を発揮し続けるためには?
当社の話になりますが、ブラザーの理念である「At your side」を実践し、顧客の生産現場でのボトルネックを解決することを重視しています。その気づきを製品開発に活かし、毎年新製品を市場に投入しています。例えば、近年需要が高まっている5軸加工機(Mシリーズ、Uシリーズ)や、大型ワークに対応可能なWシリーズなどは、現場のニーズに応えた製品群としてご好評をいただいています。
世の中では「モノ売りからコト売りへ」の転換を掲げていますが、それを簡単に実現できるわけではありません。ただし、お客様の困りごとをディーラーや自社社員が現場で汲み取り、それに対して自社製品で的確なソリューション「コト」を提示する姿勢こそが、信頼関係の構築と長期的な取引につながると確信しています。価格競争ではない“別の価値”の提供こそが、今後の差別化につながると考えています。
――中国における自動化ニーズの傾向や、背景事情については?
人手不足の解消と工場環境の改善が、現場における主な課題です。従来型の産業用ロボットに加え、まだ少数ではあるものの協働ロボットの導入も進んでおり、安全かつ省スペースな工場づくりがトレンドとなっています。
さらに、少量多品種生産への対応として、パレットチェンジャーの導入も増加しています。かつての中国の様に大型ラインを設備して安く大量生産するフェーズは終わりました。生き馬の目を抜く中国市場ではユーザー企業も今はEVの受注があるが、来年にはドローンの部品を作らざるをえないかもしれない。見通しの立たなさから潰しが効く自動化が求められます。特に当社の顧客層では全長何十㍍もある自動化ライン構築というよりは、数台(多くて8台程度)の工作機械を数台のロボットで運用する、といったコンパクトな自動化スタイルが主流です。
また、機械2台とロボット1台、そして既成のパレットシステムを組み合わせた、小規模で柔軟な自動化ソリューションが人気を集めています。
■30年までに売上2倍へ
――ロボット先進国としての中国の現状、体感することはありますか?
はい。特にヒューマノイドの加工に関する相談や引き合いは、確実に増えてきています。7月に当社のショールームで開催したオープンハウスでは、ヒューマノイドの加工ワークを展示しましたが、多くの来場者から興味を寄せられ、すでに一部では実加工が始まっています。ヒューマノイドの需要はまだ明確ではありませんが、EVの急成長や技術革新のスピードを目の当たりにしてきた中国ですから、2年もすればヒューマノイドが当たり前に使われている状況が目に浮かびます。
――ブラザー工業の中国での成長戦略は。
2030年までに工作機械カテゴリーで中国市場の売り上げを現在の2倍以上に成長する事を目指しています。高性能機などの付加価値ラインアップを増やすことと、競争力を持った価格帯で必要十分な性能を提供できる売れ筋ゾーンを伸ばす2本柱ですね。一昔前、中国工作機械メーカーが乱立したころは玉石混交となり、当社もとにかく価格という風潮に巻き込まれた時期もありましたが、中国メーカーも淘汰局面になり、利益率が高い大型機や高性能高価格機にシフト。「製品の安定性」への信頼もあり、当社の売れ筋ゾーンは安定成長を続けています。ただ、中国メーカーと価格差が開きすぎれば伸長はストップしますよね。我々も中国に工場を持っているので条件は同じはずなのに現地メーカーと原価差があります。コストをそぎ落とせる部分は中国メーカーに学ぶべきで、我々人間側のOSにスピード感やトライ&エラーのチャレンジスピリットなどの中国マインドをインストールする必要がありますね。高い目標を実現するためにも将来的には機械の開発を現地化することも選択肢としては持っています。
(日本物流新聞2025年8月10日号掲載)