インタビュー
山善(深圳)貿易 吉倉 雄二 現地法人長
- 投稿日時
- 2025/08/07 13:30
- 更新日時
- 2025/08/07 13:33
機械工具商社から製造業における総合コンサルティングファームへ
機械工具商社・山善の中国子会社、山善(深圳)貿易(以下山善深圳)の吉倉雄二現地法人長は、20年ぶりの中国赴任で市場の変貌を強く実感している。「変化のスピードが桁違い。以前の高度経済成長期の中国とは、まるで別の国です」と語る。変化の激しい中国で、商社がどう進化していくべきか。吉倉氏に戦略の核心を聞いた。

──現在の中国景況感をどう見ていますか?
景気としてはまだら模様。EV市場はBYDをはじめとする中国勢の躍進が目立ちますが、過剰生産と価格競争の激化により、今後は淘汰が進むでしょう。市場の変化は速く、沿岸部より発展した市場も、現在は内陸を中心に分散化が進んでおり、我々もリソースの再分配やビジネスモデル、事業の立地そのものを再構築する必要があります。
──山善深圳の成長戦略は?
大きく二本柱で進めています。第一が組織のマインド変革。第二が、勝てる事業立地への転換です。まず、マインド変革では、現地社員に権限を移譲し、成果に応じた報酬制度へと切り替える新たな人事制度を導入します。10月には深圳オフィスを移転し、フラットなコミュニケーションを促す空間を整えます。現地スタッフが「変化は常態」と感じられる職場づくりが狙いです。次に、事業立地の転換については、既存のEVやIT分野に加え、①半導体、②ロボティクス(特に人型ロボット)、③AIの三分野に注目しています。これらに対し、「高精度」をキーワードに製品ポートフォリオを拡張し、ソフトウェアとの組み合わせによるアプリケーションの強化を進めていきます。
──商社の役割にも変化が求められますね。
従来の付加価値としては、製品の販売及び技術サポートが主でしたが、今後は“ソリューション提供型”への移行が求められます。単なる製品提案にとどまらず、製造プロセスの課題を見抜き、最適な設備や工程改善策をトータルで提案する。これは、幅広い製品知識を持つ専門商社だからこそ実現できると考えています。このため、製造実行システム(MES)や倉庫管理システム(WMS)を起点とした「現場の可視化」が重要となります。属人的でなく、組織全体でマネジメントできる体制を構築していきます。
有力日系工作機械メーカーとのコラボレーションも強化中
──地政学リスクを背景に、海外進出を図る中国企業も増えています。
はい。自国内完結型の企業が多かった中国では、海外進出は新たな挑戦です。当社のようなグローバルネットワークを持つ企業が、進出国の事情を踏まえ、市場調査から工場建設、スマートファクトリー構築までを一括支援することで、中国企業の不安や負担を軽減できます。ここにも新たなビジネスチャンスがあります。今後、我々が持つグローバルネットワークの更なる連携が重要な鍵を握ります。
■自動化モデル工場建設目指す
──中国IT企業と協業して開発したAI搭載IoTクラウドサービス「YAMAZEN Y-PLUTO Lite」の活用状況は?
現在は、中国内企業に導入を進めている段階ですが、この製品は、あくまで部分的な対応にすぎません。メンテナンスの自動化や、一部の機械の可視化になりますが、最終的には、先に記述したようにMES/WMSを起点とした製造プロセスの可視化、それに伴うソリューションの提供が目指すところとなります。第一ステップとして、福建省の市政府と連携した自動化モデル工場の建設を目指しています。市政府の補助金を組み合わせ、産官が一体となった取り組みを行います。同工場には、MESを起点とした製造プロセスの可視化を行い、当社より最適な設備の提案を進めていきます。また、ボトルネックを抽出し、設備機能の最大化、無駄な工程の改善を進め、生産性の高いスマート工場を目指していくこととなります。
──今後、特に注力すべき領域は?
最大の鍵は「ソフトウェアシフト」です。ハードウェアだけでなく、IT・AI・制御系を融合し、お客様の製造課題に合わせた提案を行う必要があります。そのためには、営業を含むマーケティングと高精度をテーマにした技術力の向上は不可欠な要素となります。“お客様起点”の視点で事業を展開していくことが何より重要です。最近は基本的なことばかりスタッフに言っている気がしますが、時代に対応しながらも「この人なら任せられる」と信頼してもらえる人間力と、売りたい商品に偏らない広い知識が大事で、山善のDNAを大事にしながらも組織、仕組みで販売していく体制を構築していきます。