インタビュー
順豊エクスプレス 代表取締役社長 大谷 信盛 氏
- 投稿日時
- 2025/08/07 13:11
- 更新日時
- 2025/08/07 13:15
アジアナンバーワン物流企業へ
日本の物流革新をデジタル技術で支援
DHL、FedEx、UPS――物流の三大巨頭に中国の総合物流企業 SF Expressが挑んでいる。足がかりとして「アジアナンバーワン」を掲げ、日本での事業拡大も急速に進めている。同社日本支社・順豊エクスプレスの代表取締役社長を務める大谷信盛氏に話を聞いた。

順豊エクスプレス・代表取締役社長の大谷信盛氏。移動時間には短編小説を執筆し、休みには落語を見に行くなど多趣味。取材中はスマートな話口が印象的だったが、実はコテコテの大阪人。「大阪の友人との会話を聞いた人はビックリしますよ」
――順豊エクスプレス(SFエクスプレス。以下、SF)について教えてください。
「1993年に中国で創業した私たちは、もとは小さな宅配便会社でした。創業者でCEOの王衛がヤマト運輸の『顧客に寄り添う姿勢』に影響を受け、地域密着型の文化を築いたことが成長の原点です。今では『デジタル総合物流会社』として、200カ国・地域以上でサービス展開しています。昨年、香港証券取引所へ上場し、DHL、FedEx、UPSに次ぐ『第4の国際インテグレーター(※)』の座へと邁進しています」
※インテグレーター:国際航空貨物分野において自社で輸送手段(航空機やトラックなど)を持ち、貨物の集荷から配送まで一貫して行う事業者。
――デジタルが強みの一つです。
「はい。私たちは最新のデジタル技術を武器に物流課題の解消に取り組んできました。たとえば、中国の山岳地帯では医薬品や生鮮品のドローン配送を行っています。これは単なる実証や企業PRではなく、『物流の道具』として日常業務に溶け込んでいます。機器だけでなく、配送エリアは中国国内の99%をカバーし、翌日配送に対応している地域は97%に達しています。配送スピードや品質を維持しながら、競争力のある配送コストを実現するためには、徹底した業務効率化が必須であり、デジタル技術を大いに活用しています」
同社は航空機を100機以上保有し、ドアtoドアの国際輸送を確立している
――中国国内を翌日配送ですか。
「物流においてスピードは大きな価値です。一方で、品質が下がってしまっては意味がない。中国のEC化率は約50%。日本国内と比べると非常に高い水準です。逐次届く膨大な注文を高速にさばく必要のある環境下で、『SFに頼めば必ず届く』という評価を得ています。面白いのは、地方では親が子供に『何かあったらSFの営業所へ行きなさい』と教えているということです。最先端のテクノロジー企業でありながら、中国では最も身近な存在でもあります」
■第4の国際インテグレーターへ
――日本での事業展開についても教えてください。
「進出自体は2011年からですが、当初は中国からの荷物の受け入れが主でした。第4の国際インテグレーターを目標に掲げて以降、アジアでナンバーワンの地位を確立するため、日本での事業拡大にも力を入れてきました。今年は名古屋と横浜に拠点を設け、(公社)関西経済連合会にも国際委員会の正会員として加盟しました。また、秋頃には新たな物流拠点を開設予定です」
――日本市場はどう見ていますか。
「日本市場は、国内からはそうは見えないかもしれませんが、中国をはじめとするアジアの国々からすると『富裕層の多い一大消費国』であり、進出したい市場でもあります。今後さらにEC需要が高まっていくと見られており、そうしたチャンスをつかみたい企業も多くいます。また、日系企業も消費が落ち込む国内ではなく、購買意欲が高いアジア圏に信頼性の高い日本製品を展開したいと積極的です。当社はその橋渡しを物流から行っていきたい」
――日系ではどのような企業に商機があると思いますか。
「私見ではありますが、日本のフルーツや和牛、海産物などはもっと海外に知られてもいいと考えています。中小の農家さんが良いものを作っているのに、売り先が国内に限定されているため、生活が苦しいなど課題は多くあります。当社はアジア圏でコールドチェーンの構築を進めており、地方や中小の事業者が世界に販路が広げられる仕組みづくりをサポートしていきたいと考えています」
――課題は。
「認知不足です。先述の通り、中国国内ではSFブランドを確立していますし、日本でも中国企業と仕事をしたことがある方なら確実にご存知だと思います。しかし、日本国内に限定すると十分ではない。私たちは物流を『企業の顔』と捉えており、日本でも『SFでの輸送』=『顧客を大切にしている』というイメージを早急に確立していきたいです」
――中国国内では、最新の物流設備への投資も積極的です。国内でも物流課題が山積しています。そうした高付加価値な機器・サービスも展開していきますか。
「中国は膨大な物流量と不十分な交通網があるため、マテハン投資が有効打となります。一方で、日本はオペレーション側の課題が大きいように見えます。デジタル技術に優位性のある当社としてはその部分を支援していきたい。中国国内では既に日系企業の倉庫オペレーションを4PLとしてサポートしており、そうした動きを日本国内でも進め、日本企業の良きパートナーになりたいと考えています」
――最後に、日本のビジネスパーソンへ一言お願いします。
「物流はコストではなく、企業価値を高める戦略領域です。SFという新しい選択肢を認知・活用いただくことで、世界に打って出る新たな一手となるかもしれません。大阪と深圳の友好15周年という節目に、アジアの物流の未来をともに描いていければと願っています」
(日本物流新聞2025年8月10日号掲載)