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インタビュー

浜井産業 取締役 足利工場長 兼 技術本部長 小野塚 隆 氏

投稿日時
2025/07/28 09:00
更新日時
2025/07/28 09:00

ユーザー毎にカスタマイズしたホブ盤で繊細な歯車部品づくりに貢献

究極の平面をつくるラップ盤とポリッシ盤を製造する浜井産業。横形の小型ホブ盤は創業時から製造し、「完成された名機」として世界各国で愛用されているという(約7000台の納入実績)。第一期工事完成当時(1969年)の建屋が残る足利工場を訪ねた。

オークマの5面加工機(右)とヤマザキマザックの横形MCを紹介する小野塚隆工場長。2020年に現職に就き、プライベートでは学生時代からのテニスを楽しむほか最近は山歩きを始めた。「コロナ禍に妻が先に始めて月に1、2回、一緒に行くようになりました。足利にはけっこういい山があるんですよ」

――最近の景況感は。

「当社のホブ盤3機種およびホブカッタ研削盤の売上高は全体の2割ほどで、年間100台も売れるものではありません。売上台数は2024年までの3年間で見るとやや減少傾向にあります。お客様としては国内と中国が多いです。中国にもホブ盤メーカーはたくさんあり、高精度ではありませんが、低価格で一定の品質の製品が増えてきていることが背景にあります。一方でメインとなる半導体やパワー半導体、水晶、ガラス加工用のラップ盤、ポリッシ盤は受注をたくさん抱えている状況です」

――ホブ盤の販売先に変化はありますか。

「電動工具や減速機向けの歯車部品加工用が当社の主力分野になりますが、2022年、23年はアウトドア向けがホブ盤売上高の半分を占めました。コロナ禍で密にならずに過ごせる釣りなどのアウトドア用商品の需要が日本や中国で急増したためです。一方で24年はドローン向けが4分の1ほどを占めました。中国、韓国、台湾のホブ盤メーカーが台頭してきていますが、当社は彼らの主戦場であるボリュームゾーンで勝負するつもりはありません」 ――品質ときめ細かいサービスを追求していくと。

「当社はここ足利工場が唯一の生産拠点であり、スキルを持つ人材を確保するとともに、産学連携で優秀な学生を採用し、人材育成に力を入れて高い技術を維持しているところです。ただ昨今は人が集まりにくく、とりわけ設計に強い人材を採用するのは容易ではありません」

 ――主な保有設備は。

「ホブ盤だけでなくラップ盤、ポリッシ盤の製造用に大型の5面加工機や横形マシニングセンタ、旋盤・ターニングセンタ、平面研削盤、ロータリー研削盤、ネジ研削盤など計十数台のほか、ホブ盤や歯車研削盤なども保有しています」

――足利工場での製品づくりでこだわっていることは。

「いかに高精度な加工ができるか。部品単体の加工精度も重要ですが、組み立てたときにその加工機が狙った加工精度を出せるのかどうかが大切です。工数削減を求められていますが、一つひとつの部品の勘合調整、すり合わせでどうしても工数はかかります。でもそこはこだわりを持たないといい製品はできないと考えています」

――お客様の評価はいかがですか。

「当社のホブ盤は横形でコンパクトなのが特徴です。競合メーカーは国内に数社ありますが、当社機は加工精度やブランド力に強みがあります。先ほどアウトドア向けの話をしましたが、手動リールは人が手で回す非常に繊細な道具です。使用時にちょっとした違和感があればその商品は売れなくなるそうです。国内大手リールメーカーさんが自社製品に用いる歯車をつくるのに当社のホブ盤を採用してくださるのは、私どもが彼らの非常に厳しい要求に応えてきたからだと考えています。日本の大手メーカーさんに加え、韓国・中国のリールメーカーさんも当社の機械で歯車を加工しています。リールメーカーさんの要求は正直、凄まじいです」

――その要求内容はお客様によって違いがありますか。

「やはり違います。歯車試験機での測定結果が合格でも、実際に組込んだ際の『フィーリング』が悪ければ不合格となります。そのため、使用部品について細かい部分まで指定されたり、制御ソフトにこだわりを持たれており、各社の要求に応じて仕様をカスタマイズして出荷することになります」

――ホブ盤に求められる性能に変化はありますか。

「精度だけでなく最近は材料がどんどん硬くなってきています。そのため機械にパワーが必要になります。昨年のJIMTOFでホブ盤『N40HR』(精度保証ワーク外径40㍉)を出品しました。出力を従来の『N40』の7倍にして、さらにドライ加工ができる構造にしています。まだ販売に至っておらず、いま量産に向けて準備をしているところです。用途としては一般の減速機や自動車、医療機器などハイパワーが必要になるもの向けです。すべてのモノの値段があがっている現在、製造原価をいかに抑えるかが大きな課題です」

16面歯車加工特集・浜井産業P2.jpg

機械幅約1.4mの開発中のホブ盤「N40HR」。ヒューマノイドロボットに使われると思われる直径3.6mmの細長いギヤをテスト加工していた。

――今後の製品展開や新たな需要開拓の計画は。

「N40HRを拡販していくとともに、その1つ上にベストセラー機であるN60(外径60㍉、2000年発売)があります。N60はモデルチェンジしてから10年以上経っているので改良を進めています。操作性を重視し、操作画面を大きくして見やすくし、お客様が直感的に使いやすい工夫もしています。また、重切削に耐えられるようにもします。最近は中国のヒューマノイドロボットに使われる歯車の加工ニーズも出てきました。今はそこまで精度が厳しくないようですが、いずれ一般家庭で使われるようになれば静音性が求められるため、より高精度な歯車を加工できる当社ホブ盤のニーズが高まると考えています」




浜井産業株式会社

1921年創業、1938年設立、社員115人(連結)


東京都品川区西五反田5-5-15

足利工場=栃木県足利市福富新町1480

売上高の2割を占めるホブ盤を年に100台弱製造


半導体・水晶・ガラスなどを加工するラップ盤(砂のようなラップ材で磨く)を日本で最初に製造した。これにポリッシ盤(不織布で磨く)、両面研削盤、創業時からつくり続ける小型ホブ盤を合わせた4機種が主力製品。ホブ研削盤も製造する。1969年竣工の足利工場が国内唯一の製造拠点。中国・上海に営業とサービスの現地法人(2012年設立)も。



(日本物流新聞2025年7月25日号掲載)