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インタビュー

カシフジ 取締役 経営企画室 室長 樫藤 剛司 氏

投稿日時
2025/07/28 09:00
更新日時
2025/07/28 09:00

ホブ盤+α、多様化するニーズを捉え未来を拓く

カシフジは1918年に初の国産ホブ盤を開発したホブ盤の国内リーディングメーカーだ。足元では波動歯車装置など減速機向けの加工機が好調。一方で自動車産業は電動化に伴い、歯車への品質要求が高精度化へ進む。その期待にホブ盤+αで立ち向かう。

――貴社のホブ盤は自動車産業で多く使われます。

「1990年代では売上の80%が、国内の自動車関連企業向けでした。ただ足元では比率が下がっています。電動化の方向性も紆余曲折で、国内では新たな設備投資に至らない状況が4~5年続いています。一方で省人化による自動化がこの間に進み、減速機・産業用ロボットに使用される歯車、特に多関節ロボットに使用される波動歯車装置の需要が高まってきました」

――自動車と波動歯車装置では歯切り加工機にどんな違いが。

「モジュールの小ささと歯車に求められる要求精度が異なります。自動車のトランスミッションで使用される歯車は、焼入れ後に仕上げ加工がおこなわれますが、波動歯車装置は『ホブ切り仕上』。高精度な歯車加工がホブ盤に要求されます。その最も高い要求レベルに対応できたのが、『KN80型高精度ホブ盤』です。噛み合う内歯車も高精度が必要で、ギヤスカイビング盤『KPS21』がその加工精度を実現し、近年は多くの台数を出荷することができました。日本の減速機メーカーを含め、急速に膨らむ中国市場への案件が増えています」

――中国の減速機メーカーからの引合いの特徴は。

「中国政府によるロボット関連市場への強化政策もあり、減速機の主要メーカーはもちろんのこと、自動車部品製造のユーザーや全くの異分野からの参入も相次いでいます。ただ勢いのある市場からか、これまで以上のスピード感を持った対応が必要になっています」

――中国にもホブ盤メーカーはありますよね。貴社が選ばれる理由は。

「中国にはメーカーが山ほどあります。4月の北京見本市(CIMT)でも歯車加工に特化したエリアがあり、明らかに増えてきています。その中で我々を採用いただけるのは、口コミが大きいと感じています。我々のホブ盤は日本の自動車関連企業や減速機市場で実績が豊富で、その信頼・信用を元に『カシフジなら大丈夫』と判断いただけた側面があります。中国市場はとにかく、スピードが何より重要です。希望納期が短く、その要求を満たせないと引合いの土台に上がれず、失注することもあります。あわせて開発の早さも重要です。今後は双腕ロボットやヒューマノイドロボット向けの小型歯車の需要も見込まれるため、小型ホブ盤等の開発も考えていきます」

――近年はホブ+αを提案しています。

「先行きが不透明な中でもお客様の要望は多様化し、ホブ盤+αで様々な要望に応えるべく、ユニット装置の開発を積極的に行い、豊富なオプションを取り揃えました。また電動化が進む中で『より高精度な歯車を』『面粗度を上げたい』など、自動車以外の分野でも歯車への要求が一段と上がっています。JIMTOF2024に出展した『KE180F』は、焼入れ後の歯車をハードホビングとポリッシュ加工で仕上げます。焼入れ後の歯車は歯車研削盤で仕上げることが多いのですが、歯研機はとても高価です。歯研ほどの精度は必要ないが、焼き入れ後の歯車精度を向上させたいニーズがあると考え、開発して新たな仕上げ工法として提案しています」

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KE180Fは焼入れ後の歯車をハードホビングとポリッシュ加工で仕上げる

――ホブ切り後の面取り装置も充実させています。

「歯車の仕上げ加工のために、面取り形状の指示も厳しく求められるようになりました。歯車面取り工法にもいくつかの種類があります。フレージング工法は、歯面が盛り上がり、研削砥石に負担をかけるため近年は避けられがちです。そこでJIMTOF2024では、チャンファーバイト式の切削面取り装置を提案しました。特殊なエンドミルを使用したチャンファーミル方式の開発も済んでいます」

「自動車の電動化に伴って増えるステップドピニオンという2段ギヤの小径側の面取り加工には、キツツキ式の『KD250C歯車面取り盤』も有効だと考えています。このように多様な面取りのニーズに対しても、我々は広い選択肢を用意しその中から最適な工法を選択していただく方針です」

――全方位戦略ですね。

「カシフジは『今までお客様に育てられた』という自負があり、みなさまからの要望を形にする姿勢で『お客様と一緒に』という思いを軸に事業を進めてきました。このことは今後も不変です。今は方向性が定まらない時代。あらゆる要求に応えられるよう広く構えておくことが、未来を拓く手法と考えています。我々は本社工場で設計・開発・製造・販売を完結。部品の内製率も高く臨機応変に動ける。この有利な点を伸ばして市場ニーズに応えていきたいです」

――近年、複合加工機によるギヤ加工の提案が目立ちます。この点はどう考えますか。

「使い分けが重要だと思います。単品や試作なら専用工具が不要な複合加工機が合理的です。ただ生産性は専用機の方が優位な面もあり、そこには区別する一線があります。歯車加工は奥が深い。百年以上の経験があっても、いまだに勉強させられることが多々あります(笑)。面白いですよね」

「ホブ切り加工は歴史の古い工法です。ギヤスカイビング加工は約110年前に発案されましたが、近年まで実現できていませんでした。『温故知新』という言葉があるように、京都の伝統の中からも含めて古き良きものから学びを得つつ、未来につながる技術を産み出していきたいです」




株式会社カシフジ

1913年創業、1943年設立 従業員220人

京都市南区上鳥羽鴨田町6番地

ホブ盤やギヤスカイビング盤、歯面仕上盤、歯車面取り盤など各種歯車加工機を製造


創業112年の歯車加工機メーカー。1918年に初の国産ホブ盤を開発。1956年には国産で初の全自動ホブ盤を開発し、ホブ盤のトップメーカーとしての地位を固めた。1979年に業界で初めてホブ盤をCNC化。ギヤスカイビング盤も2012年に他の国内メーカーに先駆けて開発した。自動車向けの売上が多いが、近年は減速機向け歯車加工機の需要が高まっている。



(日本物流新聞2025年7月25日号掲載)