インタビュー
加茂精工 代表取締役 今瀬 玄太 氏
- 投稿日時
- 2025/07/28 09:00
- 更新日時
- 2025/07/28 09:00
人型ロボや省エネに向け、減速機のポテンシャル発掘に力注ぐ
ノンバックラッシの減速機(ボール式/差動式)、そして主力製品のラックアンドピニオン(TCG)、インデックスを製造販売する加茂精工。独自のボール減速機の機構を活かした増速機や、薄型でより軽量な精密減速機など、開発型企業として新しい分野や市場に向けた製品開発にも意欲的だ。

——景況感はいかがですか。
「よくはありません。話は色々いただいているものの後ろ倒しが続いています。動き出せば一気に出てくるのだと思いますが、当社は35%ほどが海外向けで、中国や韓国関連の設備が多いです。おそらく国内で出している製品も結構な量で海外拠点のラインに装置として出ている。トランプ関税絡みでストップしているのだとしたら、国内が盛り上がってもすぐには上がらないかもしれません」
——最近動きのある製品は。
「ステンレス仕様のTCGが増えています。クリーンルーム用途で、電池やバッテリーの生産ラインで使われています。少し前までは大手自動車メーカーが開発する次世代電池向けにたくさん導入いただきました。一旦終了しましたが、次世代ということでまた話は出てくると思います。TCGも減速機も、これまで自動車産業にあまり入っていませんでしたがEVが出てきたことで増えてきましたね。自動車の電装化がどんどん進むにつれて、ここ10年ほどで自動車産業向けの売上が伸びています」
「他には大型のTCGが、液晶パネルや有機ELのパネルを製造する中国や韓国で工程間搬送の大型ロボットに使われています。今後、有機ELパネルのテレビはさらに増えそうですね。曲面化できるため折り畳みスマホや、スマートウォッチ、ウェアラブルグラスなどでも市場が拡がっていくでしょう」
——減速機における可能性は。
「当社独自のボール減速機は、歯車の代わりにスチールボールを用いて伝達させます。ノンバックラッシの高精度で軽量かつ速く動かせるのが強みですが、高剛性が必要な用途のロボットには機構上、ニーズと合わない部分がありました。ボールではなくピンを用いた薄型の差動式減速機『PSR/PSLシリーズ』は、薄くて軽くて高精度。これから期待されるヒューマノイドロボットは軽量化が重要となるため、そのニーズを狙い樹脂やカーボン素材を採用した薄型の減速機の開発を進めています」
——他にも新しい展開を構想中とか。
「ボール減速機は私の父が発明しましたが、2年後に販売開始から40年の節目を迎えます。そこで考えているのは、ボール減速機を応用した増速機の開発。歯車式の減速機だと逆転しないようセルフロックがかかるようにしたりしますが、ボール減速機は逆回転させやすい。具体的なターゲットは限定していませんが、色んな発電機と組み合わせられます」
——減速機の効率性は省エネ化も繋がります。
「ロボットが増えれば減速機も増えます。モーター効率だけでなく、減速機の効率も消費電力量に影響します。高効率なボール減速機の開発も形にしたいです。伝達効率が高いボール減速機はこの点において優位性があります。また開発時から大きく機構は変わっていないため、開発における伸びしろやポテンシャルはまだまだあると思います。ヒューマノイドロボットに搭載するバッテリーでも高効率な減速機は差別化ポイントとして活かせます」
左上は薄型ボール減速機「JFRシリーズ」、右上がボール減速機「BRシリーズ」、手前が超薄型差動式減速機「PSR/PSLシリーズ」
——工場の自動化にも手を着けられています。
「TCGの専用工場でもある出雲工場に、昨年ファナック製の大型ロボットを初めて導入しました。TCGの穴あけ工程では、1日300個ものワークを人の手で交換していましたが自動化して夜間も動かしています。今年は本社工場にも協働ロボットを導入しました。減速機の生産は1、2台から100台単位までとバラつきがあるので100台以上の場合にロボットを使います。多品種変量生産のためフルオートメーションは難しいですが、自動化できるところは随所にあります。コストに主眼を置くのではなくロボット導入から得る発見が、次のビジネスに繋がるかもしれません」
——今後の展望は。
「モノづくりの幅を広げていきたいです。一昨年に旋盤加工の企業をM&Aしました。市場開拓できてないところに向けては既存製品の改良で伸ばしていく。また、自社ノウハウで新商品を作る。そしてM&Aを通してグループのモノづくりを強くしていきながら、ボール減速機のリバイバルに力を入れます」
加茂精工株式会社
1980年設立、社員85人
愛知県豊田市御作町亀割1166
ラックアンドピニオンを月に2000~3000台生産、減速機は月に約700台生産。売上比率は「65%がTCG、30%が減速機、5%がインデックス」(今瀬社長)という。
生産拠点として減速機とTCGのリングを生産する本社工場とTCG生産専用の出雲工場(島根県出雲市)を構え、中国、韓国には販社をもつ。丸みを帯びた歯形状やボールを用いたボール減速機が特徴で、高精度マシニングセンタを使った受注生産で顧客の要望や、小ロットから特殊設計にも柔軟に応じる。
(日本物流新聞2025年7月25日号掲載)