インタビュー
岡本工機 代表取締役社長 菊地 正人 氏 (日本歯車工業会理事)
- 投稿日時
- 2025/07/28 09:00
- 更新日時
- 2025/07/28 09:00
ロボット向け中心に月に60万個の歯車を自動生産
ロボット向けの歯車を中心に工作機械も製造する岡本工機は広島県内に4つ、中国に1つの工場をもつ。いずれもロボットを活用した自動生産を推し進める。2023年3月に竣工し、平行軸歯車をつくる府中第二工場(府中市)を訪ねた。

主力のロボット分野のほか新規顧客の獲得に注力すると話す菊地正人社長。趣味はお酒とカラオケでサザンオールスターズを歌う。今年は春に福岡と大阪会場へ2回コンサートに行き、2時間半ほぼ立ちっ放しだったという。
――歯車を中心に研削盤なども製造されています。
「当社の第1の柱は直径10~600ミリの歯車で国内で月におよそ35万個、中国工場を含めると計60万個つくっています。第2の柱はアングルヘッド、減速機、刈払機ギヤヘッドなどのギヤアッシー製品。第3の柱は内外端面複合・両頭・内面研削盤、スライシングマシンなどの工作機械で、ここ府中第二工場では自社でつくった横形のホブ盤も活用しています」
――ここ府中第二工場が最も新しい工場ですね。
「歯車は大きく分けると平歯車などの平行軸歯車とかさ歯車があり、歯切り工程がまったく違います。府中第二工場では平行軸歯車の熱処理前までの前工程を担い、月に10万個弱の生産です。その後の熱処理、研削、検査、出荷は本社工場分(かさ歯車の前工程)と合わせてあそこの府中工場(窓から山の中腹に見える)で行います。2年前はロボット業界が忙しかったからそれに応えられるよう各工場の役割を大シャッフルしたんですよ」
レール上を移動するロボットが手前の円柱材をつかみ、反時計回りに旋盤1→旋盤2→ホブ盤→MC→スロッター→バリ取り装置(小型ロボットを含む)へと順番に受け渡す。
――ロボットを駆使した自動生産をされていますから相当な設備投資です。
「30億円ほど投資し、50台ほどの加工機とロボットを入れて12の自動製造ラインをつくりました。当時、納入先のロボットメーカーさんから生産を2倍にするからついてきてと言われて。でもロシアのウクライナ侵攻などがあってロボット市場はむしろ落ち込み、欧州での設備投資も縮小し、現在の当社の仕事量は投資前の6、7割の水準です。でも投資しないことには仕事は得られません。ロボットは将来、必ず伸びます」
――貴社は振動・騒音を減らす珍しい歯車を製造されています。
「『超音波援用歯車研削』は世界で当社だけの加工法です。超音波を利用して歯面に微小な凹凸をつくり、そこに油が入り込みます。潤滑性が増し振動・騒音を抑制し、耐摩耗性も向上します」
――世界で唯一の歯車ですか。
「証明するのは難しいですが、まず間違いありません。少なくとも日本では特許を取得しています」
――府中第二工場は今後、増産の計画があったりするのですか。
「見ていただいたように、工場内の設備はわりに隙間をあけてあります。必要に応じて能力アップも視野に入れています。繁忙期にお客様のなかには要望に応えられずご迷惑をおかけしたところがあります。今後は絶対に納期遅れをしない体制にしようと約束しています。ロボットに多く使われる平行軸ギヤを現状の1・5~2倍の月産15~20万個くらいまでなるべく早い段階でもっていきたい。ですから新規顧客を得ようとがんばって営業しています」
――この工場にギヤスカイビングマシンを1台だけ保有されていましたね。
「カシフジさんの初号機(KPS30)は忙しく稼働していて、もう1台ほしいくらいですが高い。1億円まではしませんが。加工効率はギヤシェーパーを使った場合の4~5倍くらいありますから、できるものはすべてこの機械に回します。もっとも万能ではなくて、径の異なるギヤが近接する2段ギヤでギヤ間が狭い場合はカッターが干渉するため使えません」
――最近はマシニングセンタ(MC)で同様のことをやれるそうですが。
「MCでも歯切りからその他の加工まで行うことはできますが、やはり時間がかかるし、専用機(スカイビングマシン)ほどの剛性もありません。10個、20個単位の加工ならいいのですが、当社のロットは100だと少ない方。500くらいを3連続で流したりしますから」
――ただ、スカイビングセンタは刃物の消耗が激しいのが難点だと聞きます。
「まさにそうです。機械を導入してからまともに加工ができるようになるのに1年かかりました。カッターメーカーさんと材料やコーティング、加工時の角度などの共同研究をし、ホブ盤ほどはもちませんが、今では500、600個の加工は軽くこなせます」
――新たな需要開拓の計画は。
「ロボット向け歯車が当社の主力ですが、他分野、多国を開拓していきたいです。当社は岡本工作機械製作所のグループ会社で、同社の世界中にある拠点をうまく利用させてもらいながら、ヨーロッパ、インドも開拓したいです」
岡本工機株式会社
1975年設立、社員332人
広島県福山市金江町金見2050
平行軸歯車とかさ歯車を月に約60万個生産(うち日本で35万個)
研削盤大手の岡本工作機械製作所から分離してできた。事業は歯車製造を軸に、歯車製品(アングルヘッド、減速機、刈払機ギヤヘッド)、工作機械(内外端面複合・両頭・内面研削盤、スライシングマシン)を製造する。製造拠点は広島県内に本社工場(福山市、かさ歯車の前工程)、尾道工場(尾道市、工作機械・半導体製造装置・自動車ギヤ)、府中工場(府中市、歯車の後工程=熱処理・研削・検査・出荷)、府中第二工場(府中市、平行軸歯車の前工程)の4つと、中国・常州市に100%出資の子会社(日系および現地企業向け歯車)をもつ。
(日本物流新聞2025年7月25日号掲載)