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インタビュー

菊地歯車 代表取締役社長 菊地 義典 氏(日本歯車工業会会長)

投稿日時
2025/07/28 09:00
更新日時
2025/07/28 09:00

自動車、航空機、ロボット向けギヤを4千種製造

スイス、ドイツ製歯車研削盤などを保有し、両手に持てるサイズの多様な歯車を製造する。事業譲受により工場をどんどん増やし、現在は足利市および芳賀郡に計8工場に。難易度の高いギヤづくりを目指し、設計・開発にも力を注ぐ。

約20年前、35歳で4代目社長に就いた菊地義典さん。昨年5月には(一社)日本歯車工業会の会長に。千葉ロッテマリーンズのファンで、年間48試合が観られるシーズンセレクトクーポンをもつ。「電車で片道2時間ちょっとかかりますが、土日のどちらかに観に行きます。早く仕事を引退して球場のそばに引っ越したいです」

――貴社の得意分野は自動車ですね。

「売上比率としては自動車分野が48%(2024年6月期)を占めますが、あらゆる分野を対象とし、特にいま航空機関係やロボットに力を入れています。伸びる業界に仕事の内容をシフトしていくことが非常に大事です。私が入社した頃はコピー用紙のシュレッダーの歯車をたくさん製造していましたが、非常に単純な形状で、結局その仕事は台湾などアジアに流れていきました。ですから日本で仕事するには難しいものにチャレンジしなければなりません」

――難しい形状の歯車をどれくらい生産していますか。

「2024年度の販売実績で4000種、290万個。このうち特定の自動車部品メーカーさん向けの車輪用トルク分配ギヤが180万個を占めます。これでも量産にしては少ないほうです。自動車部品メーカーさんは大量生産するギヤは内製しますから。当社の取引先としては約210社。関西のお客様が増えており5割以上を占めます。1ロット100個前後が多いですが1個からでもつくります。お客様が持ち込まれたものを修理することもあれば、持ち込まれたものと同じものをリバースエンジニアリングで作ったり、減速機として納めることも。ギヤの大きさとしては直径10~400㍉までです」

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リープヘル(右)などスイス、ドイツの歯車研削盤が並ぶ第6工場

――直径400㍉を超えると貴社にとって難しくなりますか。

「大きな歯車をつくることはできますが、サイズが変わればそれに合わせて測定機も新たに設備しなければなりません。ですから歯車メーカーさんはだいたい自社が取り扱う範囲を決めているものです。大量生産するのであれば専用ラインを作って自動化・無人化ができますが、少量多品種生産ですからやはり現場の人の技能に頼らざるを得ません」

――保有設備はホブ盤が中心ですか。

「創業時に保有していたのがホブ盤ですから、今でも台数としては一番多いです。創業時にこの工業団地の弊社近くに18社が集まりましたが、今では6社に減りました。当社が事業を譲り受けるかたちで吸収し、ここ本社は7工場に増えました。昨年11月に譲受してできた宇都宮工場はスポーツカー用ギヤの試作などを担います。全8工場の設備はホブ盤67台、ギヤシェーパー23台、ギヤシェービング盤15台などの歯車加工機と、NC旋盤42台、マシニングセンタ28台(うち5軸機8台)なども。高精度の要求に応える歯車研削盤も充実し、ライスハウアーが8台、リープヘルが2台、KAPPは2台。これらは1台1~2億円はしますし、今の円安ではとても買い足せませんが」

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内歯を2段にヘリカル加工したギア(左)と減速機

――景況感はいかがですか。

 「苦労してますよ(笑)。全体的に景気は少し低迷していて、産業用ロボットは在庫調整にあるようですし。当社は強みを見直し、減速機として納めるなど設計の仕事も受けるようになりました。減速機はまだ累計出荷50台ほどですが、わりに好評でいま認知度を高めようとしています」

――歯車づくりでこだわっていることは。

「歯車メーカーとしてQCDを満たすのは当然のことですが、それプラス、ISOなどを認証取得し全体のマネージメントを行い、安定した品質の製品を供給し続けていると自負しています。宇都宮工場では難しい試作を短納期で収める機能を飛躍的に高めており、設計・開発の仕事を主軸の1つにしていきたい」

――課題はありますか。

「やはり人ですね。熱心で優秀な若い社員もいますが、どちらかというと仕事よりそれ以外を大事にしたいと考える社員が多く、厳しい競争に勝てるだろうかと不安になります。情熱を持て、とまでは言いませんが、仕事の面白さに気づく人をもっともっと増やさなければなりません。面白いと思えば自然とスキルも伸びていきます」

――なんでもハラスメントになる時代ですからね。

「無数にハラスメントの言葉を増やしてしまい、その風潮に引きずられてるように感じます。ベトナムにはまだハラスメントという言葉はないようです。日本だけで仕事をするのならいいのですが、国際競争に打ち勝たねばなりません。当社の海外売上比は1%もありませんが、納めた先で輸出されるケースは少なくありません。いつまでも日本のアドバンテージはないという危機感はありますね。ですから日本歯車工業会では毎年、海外を見る機会を前会長の時代から設けています。一昨年は台湾に、昨年は韓国に行き、今年は11月に欧州に行きます。できれば若い人に見に行ってもらい、なにか気づいて動けるような機会をつくり続けたいですね」




菊地歯車株式会社

1940年創業、1969年設立、社員137人

栃木県足利市福富新町726-30

10-400mmサイズの歯車4000種を年に290万個出荷


自動車分野(47.7%、2024年6月期)を中心に建機・油圧機器(24.3%)、航空機(7.7%)、ロボット向け(6.2%)の歯車を製造。設計・開発にも力を注ぎ、減速機として納めることも。近年は航空機、ロボット分野の仕事が増加。2009年に取得した航空宇宙品質マネジメントシステムJISQ9100は歯車業界で初という。資格取得者が多く(全社員の実に66%)、国家認定特級技能士15人、同一級技能士60人、同二級技能士38人。昨年、事業譲受により稼働した宇都宮工場(栃木県芳賀郡)ではスポーツカー向けギヤを試作する。



(日本物流新聞2025年7月25日号掲載)