インタビュー
育良精機 常務取締役 大槻 芳朗 氏
- 投稿日時
- 2025/07/11 13:04
- 更新日時
- 2025/07/11 13:23
ファイバーレーザー溶接機 普及拡大へ
安全設計と適切な運用をセットで提案
育良精機は4月、同社としては初めてとなるファイバーレーザー溶接機を市場に投入した。手軽さと高性能で普及が進むポータブルタイプのファイバーレーザー溶接機だが、適切な安全対策が施されずに使用されているケースが散見される。普及拡大と同時に適切な使用方法を広めるための育良精機の取り組みについて聞いた。

――このたび、ポータブルファイバーレーザー溶接機の販売を開始しました。
「4月に発表し、6月から本格的に販売しています。本製品は当社にとって初めてのファイバーレーザー溶接機で、非常に期待しています。一方で、開発段階にはいくつかの葛藤もありました」
――葛藤とは。
「持ち運び可能なタイプのファイバーレーザー溶接機は非常に扱いやすく、特別な技能がなくても高品質な溶接が可能です。価格面でも輸入品の中には数百万円で購入できるものもあり、手に取りやすい点が評価されています。その手軽さに反して、ファイバーレーザーは安全規格上、最も危険度の高い『クラス4』に属しています。万一の事故を防ぐためには、ユーザー様にも運用面でご協力いただく必要があり、普及と同時にそうした土壌を育てていかなければならない点に、これまでの製品との違いを感じていました」
――それでも開発を進めた理由は。
「これから市場を築いていく技術であり、使い方を誤らなければ極めて有用です。しかし一度事故が起これば、規制が強化され、技術そのものが過剰に危険視されてしまう。そうした状況に陥らないためにも、安全な製品設計と正しい使い方のセットで提案し、有用な技術を適切な形で広めていきたいと考えました」
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――貴社製品の特長は?
「性能自体は他社製品と大きく変わりませんが、『IEC60825―1』という欧州を中心としたレーザー機器の安全規格を認証取得し安全を最優先としている点が特長です」
――認証取得にあたってはどのような点を改善してきた。
「IEC60825-1には安全性に関して製造者側に厳しい規格があります。製造メーカーとして当社は規格に準拠したレーザー発振を停止するインターロック機構、キーコントロールなどを組み入れました。また、本規格には使用者側の義務も明示されており、そこを広く認知していただく取り組みも重要と考えています」
――具体的には。
「安全な運用を啓発する講習会を実施したり、導入時にはチェックリストをお渡ししています。たとえば、『レーザー溶接機専用の区画の設置されていること』や『作業区域の出入り口には外部インターロック機構を設けること』といった最低限守っていただきたい項目を共有し、確認してから導入いただいています。こうした取り組みは、ポータブルタイプの製品を扱うメーカーとしては当社が初めてだと自負しています」
――ユーザーからの反応は?
「手間が増えるなど批判的な意見を想定していましたが、動画などを交えて危険性を紹介することで、当社の取り組みに対して理解を示していただいています。従来の溶接とは違い、ファイバーレーザーは瞬時に失明や火傷のリスクがあります。しかも、被害を受けるのが作業者本人ではなく周囲の第三者というケースも少なくありません。だからこそ、製品普及の取り組みと同時に正しい情報を発信し、業界全体の安全レベル向上に貢献していきたいです」
今年4月に発売したポータブルファイバーレーザー溶接機。国際規格「IEC60825-1」を認証取得した製品
(日本物流新聞2025年7月10日号掲載)