インタビュー
タカラスタンダード 小森 大 社長
- 投稿日時
- 2025/05/28 15:45
- 更新日時
- 2025/05/28 15:49
過去最高売上達成、営業の専門性向上が奏功
タカラスタンダードの小森大社長(昨年4月1日付)が就任して約一年が経過した。最初の"通知表"となる「25年3月期決算」が5月8日に発表された。小森社長に前期の振り返りと今後の成長戦略を聞いた。

――25年3月期は売上高が過去最高の2433億円(前期比3.7%増)、営業利益156億円(同25.8%増)という着地となりました。
「市場としては着工数が低調だった新築部門で、営業強化を実施し、売上を伸ばしました。以前はオールマイティーにやっていた営業部隊を、数年前からリフォーム、新築戸建て、マンション、と専門性を持たせて分けた成果が出たのだと思います。反面、中長期の成長戦略でも重要なリフォーム市場では前年を割っておりますし、シェアも取れておらず、足元が『いい結果に終わった』とは評価していません」
――リフォーム部門、後半は持ち直していますが、力をいれられた?
「前期の価格改定に伴う駆け込み需要の反動もあり前半戦は低調でした。社長就任直後ということもあり、何とか立て直しをしなければと、てこ入れを行いました。新築ですと、3000万だった家が4000万に値上がりしても、投資効果も考えローンを組んで買うことも出来ますし、2階建てを平屋にしてコストを抑える対応も可能です。リフォームは例えば自己資金200万円で、理想を実現したい、というように物価高だからと予算アップ出来るわけでもありません。業界全体がコストプッシュ型の値上げを行ってきた結果、当社のショールームでも気づけば、展示商品が高価格帯に寄ってしまい、お求めやすいボリュームゾーンが手薄になっていた。商品の組み合わせなどを工夫し、どの価格帯でも魅力あるものを提供できるように改善。下期は回復基調となりました。一度立ち止まって、消費者の立場に立って考えることの大切さに気付かされましたね」
「業績の振り返りとは異なりますが、社員との距離感を縮めることを徹底し、社内の風土は変わってきたと感じています。本社は細分化して、専門性を持たせながら経営陣がハンドリングしつつ、現地は集約してチーム営業が出来る組織に変革しております。働き手が多くいた時代と、現在の人口減少社会では最適な組織や風土は変わって来ています」
――組織の話が出ましたが、構造改革も注力されている。
「構造改革推進室を作り調達・生産・受発注・アフターサービスをどうつなげていくか、の制度設計を始めまして、おおむね設計図が描けました。そこでTDX推進本部を発足させ、今期から実装を進めます。システムとして目指すものは『脱取り次ぎ』を含め、属人的によらずすべての業務プロセスをコネクトすることですね」
■ホーロー技術がAIや宇宙に
――海外戦略は
「総額400億円を投じて主力の福岡工場にシステムバスの壁パネルの新工場を建てます。2028年4月操業を目指しています。生産能力は1.5倍になりシステムバスの強化に寄与するだけでなく、既存棟に余力が生まれるのでそれを海外事業にも割り当てます。海外の売り上げを11億円から100億円に伸長させます。4月に海外初の台湾支店を開設、インドもパートナーを選定しており、テスト販売を実施している段階です」
「国内がシュリンクするから海外に、と思われるかもしれませんが、国内のシェアアップは可能です。今後市場としてはまだ期待できるリフォームでのシェアは16%しかない。新築戸建てでも20%台です。分譲マンションのキッチンシェアは8割なので市場と連動するかもしれませんが、バスはまだまだシェアが低いので、営業を強化し、シェアを拡大した分は福岡工場の増産で対応します。国内で売上を落としていく、というイメージを当社はまったく持っていません」
――シェアアップの打ち手は。
「例えば、職人さん不足の中で『運びやすく施工しやすい』新商品の開発は必要ですね。ホーローは消費者にとって魅力的ですが、施工業者にとっては重くて施工しにくいというイメージがあります。この課題を解決するだけでも販売のチャンスは増えます。これは一例ですが、シェアアップの打ち手は多くあり、国内での持続的成長は実現できます」
――新規事業の進捗はいかがでしょうか。
「一つの例ですが、釉薬に使われているガラスフリットをサブミクロン(1万分の1)まで細かくする研究を広島大学とやっています。1000分の3の細かさのものは実用化し義歯に活用していますが、さらに細かいものを作れる量産試験機を調達して提案段階に移行します。電子基板における金属と金属の接合で、現行品より細かい当社製品を活用すればダウンサイジングに貢献出来ます。熱を抑制する機能もあり、AIのデータセンターの熱対策や宇宙ロケットの耐熱タイルでの活用も模索しています。私がこの話をしなくなったら、どこかと秘密保持契約を結んだと思ってください(笑)」
(日本物流新聞2025年5月25日号掲載)