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インタビュー

新奇性生み出すには家具屋さん的発想が必要

投稿日時
2021/12/10 13:59
更新日時
2024/08/19 13:17

STUDIO KAZ 代表 和田 浩一 氏 (インテリアデザイナー)

キッチンに限らず洗面、お風呂、トイレと水回り全般に言えるが、コロナ禍でみなさん様々なことに気を使うようになった。たとえば手を頻繁に洗うようになり、洗面所だけでなく玄関先で洗う人も。家にいる時間が長くなったので家の中をよく見るようになった。ちょっとココ使い勝手が悪いよねと。

わだ・こういち 1965年福岡市生まれ。九州芸術工科大学芸術工学部卒業。トーヨーサッシ(現LIXIL)インテリア事業部勤務などを経て94年STUDIO KAZ設立。2014年から工務店向けセミナー「キッチンアカデミー」主宰、同年から東京デザインプレックス研究所非常勤講師。受注に波のある仕事をほとんど1人でこなすのでそのやりくりに腐心することも。「犬(イタリアングレイハウンド)と遊ぶのとバンドでギターを弾いて歌うのがストレス解消ですかね。コロナ禍でライブができていませんが」

お客様はキッチンについては工務店さんにお任せすることになりがち。ショールームを訪問したうえでメーカーを指定するくらいはするにしても、工務店さんからするとサイズが同じなのでどこのメーカーでもいいよという立場にとどまるケースが多い。ところが時間ができて夫が料理しようと思うと、この設備ではオレには狭いな、これ作るならオーブンがほしいなと言い出す。男って設備や道具から入る人が多いので。こだわる人が増えてきたように感じる。

私は工務店さん向けの会員制セミナー「キッチンアカデミー」を実施し、会員となった工務店さんに知識を提供するほか、技術サポートもする。だが、コロナ禍で集客できなくなった。月2回ほど様々な会場で実施してきたが、オンラインにして受講無料にすると、全国的に集客はできるが冷やかしが増えた印象。会員契約にまで至らないケースが多かった。ところがここ23カ月は設備にこだわる人が増えたせいか、契約に至るケースが増えている。いまは60社近くまで会員が増えた。リフォーム、リノベーションに取り組むには既製のキッチンだけでは大手に勝てないということだろう。

キッチンのプランは難しいと多くの人が声を揃えるが、キッチンの要素を分解すると水・火・包丁・収納の4つになる。これらは天板の上で行うが収納だけは天板と関係がない。それなら収納はひとまず置いておいて水・火・包丁を使う場所を好き勝手にレイアウトすればいい。3つの行為のなかで手元から目を離せる作業は水だけ。それなら水を使う場所を一番いい景色が見られる位置にもっていきたい。それは隣の小学校の桜かもしれないし、自宅の庭、家族、テレビかもしれない。火の場所は食生活による。焼き魚を毎日食べる人、揚げ物をしたい人、一切調理せず惣菜を買ってくる人もいて、そこに求める設備が違えば発生する煙・油・臭いの量も変わる。食生活に合わせて火の場所を決めるべきだろう。今は猫も杓子もペニンシュラタイプ(対面キッチンの壁側にコンロがあって反対側にシンクがある)だが、場合によっては煙が拡散しない位置や仕組みにする必要がある。水・火・包丁の位置が決まればそれを天板で繋げばキッチンができあがる。1列に並ぶのか2列になるのかL字形なのか。点在してもいい。それをわかりやすく具現化したのが「COCOO」(=写真、和田氏が考案)だ。

■ビルトイン機器がキッチンに同化

今までのキッチン天板はステンレスと人工大理石の2択だった。その後、クォーツストーンとセラミック(LIXILが採用)が出た。クォーツ系の人大はメジャー化するには至っていないが10年くらい前からこっそりと流行っている。一般的な人大はアクリル樹脂なのでキズがつく。キズは白く、濃い色の人大だと目立ってしまう。そのためキズが目立たない白い天板が主流となっている。ところがクォーツ系やセラミックはキズがほぼつかないので濃い色の天板が使える。しかも高級感が出せる。だからオーダーキッチン市場ではクォーツ、セラミックがすごく流行ってきた。

流行っていると言えばマットブラック色の水栓金具もそう。人気のIHはフラットなガラスなので天板にスッキリ収まる。レンジフードはアリアフィーナ製が売れていて、最下部が非常に薄くスッと垂直に煙突が伸びている。シンプルで存在感がない。食洗機はオールドアと言って、操作パネルが扉正面から上面に移動して平面に収まる。ビルトインするアプライアンスの存在感が消え、キッチンに同化しつつある。そうなると対面キッチンでは水栓金具が目につく。なので水栓金具の選び方がキッチンをデザインする際のかなり重要なポイントになった。

新しい製品を生み出すには家具屋さん的発想が必要だと思う。実はいま日本各地の家具の産地に若手の元気のいい家具屋さんがあり、そこがキッチンを作り始めた。福岡のシンクファニチャーさんや岐阜の藤岡木工所さんなど。キッチンというと箱があって天板があってという考えでつくりがちだが、彼らはそうではなく、家具のルールでつくろうとする。私はそこが面白いと思うと同時に脅威にも感じる。両社ともすごく人気があるので。家具屋さんは流通を通さず直接お客様に売るので、素材にこだわったオーダーキッチンでもそれほど高くなりにくい。

私はキッチンだけでなく内装全般を設計していて、目指すのはキッチンの存在感をなくすこと。キッチン専業メーカーさんはキッチンが主力商品なので目立たせる必要があるのだが。私はインテリアの中にキッチンをいかに溶け込ますかを考える。風景の一部としてキッチンがあり、普段は意識しなくてもいいくらいひっそりとしている。というのが理想だ。

(聞き手・編集部)

13面水回り特集(2)STUDIO KAZ和田浩一代表P2.jpg

和田氏が考案した七角形のモジュールで構成するキッチン「COCOO」。天板には衝撃や熱に強いクォーツ系人工大理石「ULTRA SURFACE」(吉本産業製)を採用



20211125日号掲載)