インタビュー
デジタルソリューション 常務執行役員 高下 和浩 氏
- 投稿日時
- 2025/05/26 17:25
- 更新日時
- 2025/05/26 17:30
量子コンピューティング技術を誰でも簡単に使える時代へ
生産計画作業を2時間から1秒に
自動車関連の流体・構造解析に強みを持つデジタルソリューション(広島市東区)は、量子コンピューターの計算手法を用いた製造工程・生産管理のスケジューリングサービスをスタートした。導入検証している熱処理関連企業では従来2時間ほどかかっていたスケジューリング作業を約1秒まで短縮できたという。同社・常務執行役員の高下和浩氏に話を聞いた。

デジタルソリューション・常務執行役員の高下和浩氏
――今回開発した生産管理スケジューリングシステムについて教えてください。
量子コンピューティング分野で使われる数理モデルを応用した、生産管理用のスケジューリングシステムです。GPUや量子計算機を使用せず、一般的なPC上で高速に計算できる点が特徴で、当社が導入支援も行うため、専門的な知識がなくても簡単にご活用いただけます。
――他の生産管理スケジューリングシステムと何が違う。
特に、複雑かつ変動の多い生産計画にも対応できる点が強みです。現在テスト導入中の熱処理工場では、五月雨式に届く注文に対し、「納期を守る」「同一注文は同じ設備で連続処理する」「優先度の高い注文を先に処理する」といった実務上の多くのルールに対応する必要がありました。そのため従来は、専任の担当者が約2時間かけてスケジューリングをしていましたが、本システムではその作業を約1秒で完了できます。さらに、作成されるスケジュールは既存の人手による計画と同等以上の精度であることも確認されています。
――高速・高精度なシステムをどう実現した。
広島大学大学院先進理工系科学研究科の中野浩嗣教授とNTTデータグループが共同開発した「QUBO++」を活用しています。QUBO++とは、組合せ最適化問題をQUBO(Quadratic Unconstrained Binary Optimization)形式に変換し、解を導出するためのツールで、C++言語で開発されています。広島大学のWebサイト上で公開されています。
――組合せ最適化問題とQUBO問題とは。
最適化問題とは、ある条件のもとで最も望ましい解を求める問題です。その中でも、組合せ最適化問題は、割当や順序といった組合せ的な構造を持つ問題を指します。これらの多くは、0―1変数を用いたQUBO形式に変換できます。通常、QUBO問題に変換した後は、加・D-Wave社のような量子アニーリングマシンを使って解を求めます。しかし、QUBO形式への変換には専門知識が必要であり、中小企業では計算機利用に高いコストをかけにくいという課題もあります。
――QUBO++を利用することでそこを乗り越えた。
はい。QUBO++は、数式の変換から解の導出までを一貫して行えるツールです。ソルバ(解探索)機能も備えているため、専門知識がなくても最適化問題に取り組むことが可能です。さらに改良も加えられており、問題によってはCPUでも商用ソルバを凌駕するような計算速度や精度を発揮することが確認されています。最適化ソルバとしての新たな選択肢となると考えています。今回発表した生産管理スケジューリングシステムも、QUBO++の変換機能と解探索能力を活用することで、一般的なPCでも高速・高精度の計算を可能にしています。
――今後の展開について。
私たちはQUBO++の普及と社会実装を目指しています。公開から半年が経ちましたが、より多くの方々に活用していただける可能性を感じています。現在は、工場の加工計画や従業員シフトの最適化、輸送計画の効率化など、さまざまな分野に応用を広げており、コストパフォーマンスと実用性を両立したサービス展開を進めています。こうした課題解決を通して、QUBO++の価値を広く社会に届けていきたいと考えています。
(日本物流新聞2025年5月25日号掲載)