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インタビュー

株式会社山善 代表取締役社長 岸田 貢司 氏

投稿日時
2025/05/19 09:00
更新日時
2025/05/19 09:05

心と技ある商社として PROACTIVEに前進――

生産財と消費財の専門商社、山善の岸田貢司社長に前3月期の振り返りと今後について聞いた。足元で変幻するトランプ関税問題などにより、先行きのビジネス環境はいっそう予測不能な状況にあるが、岸田社長は、山善は営業力と人間力をリアルな現場で高め、「心と技ある専門商社」として更に前進すると謳う。新たな中期経営計画や、誕生から満50年を迎えた展示商談会「どてらい市」についても基本的な考えを語ってもらった。


前期  微増収・微減益

――能動的な事業活動を高めていく


――前期は、前々期と比べても、また期中発表の公表計画と比べても、科目によって微増・微減ありますが(下の表参照)、連結業績はおおむね見込みの範囲で着地したと見えます。どう振り返りますか。

岸田 正直申し上げて、前期は連結売上げで過去最高(23年3月期、5273億円)の更新を狙っていたんですよ。コロナ禍以降も低迷した設備投資でしたが、さすがに上向くと踏んでいたんです。しかし、半導体やデジタル関連大手の一部を除き、モノづくりの現場には投資機運が広がらなかった。結果として生産財事業が期待したほど伸びず、不満の残った一年ではありました。反面、期初計画との大幅な乖離を懸念した場面もあったのですが、期末にかけ社員たちは奮闘し、山善の底力を見せてくれました。とはいえ、改めて前期全体を振り返ると、積み残しは多かったと感じています。

――セグメント別では?

岸田 当社は生産財と消費財のダブルウィング専門商社ですが、消費財の健闘は光りましたね。住建事業部は、非住宅や新エネルギー関連など従来のビジネス領域とは異なる分野で存在感を示しました。この新規開拓スピリットが、売上・利益ともに過去最高数字を実現しました。家庭機器事業部も、B2B、B2Cの双方で商品開発を含む緻密な戦略を推し進め、高い結果を残しています。一方で生産財事業は、申し上げたとおり、市場の低迷から抜け出せず、特に工作機械事業の受注が伸びず、全体で目標に届かなかったですね。ただ理由はいろいろあるとしても、激変する環境のなかで、もっと固定観念を捨てた、より果敢な活動が求められていることは間違いないと思います。前期の苦しみから、生産財分野は、よい教訓を得たと考えています。

――次なる課題がみえてきた?

岸田 はい。再認識したのは、現況は甘いものではなく、やがて自然に回復するものでもないということ。従来から大切にしている主力メーカー様とのパイプを更に太くし、全国のお得意先様とともに、まさに「固定観念を捨てて」、提案営業を進めていくしかないということです。


今期  売上5300億円にチャレンジ

――専門性を強化し勝ち抜く


――今期について、詳細な見通しまでは目下困難かと思いますが、方針などお聞かせください。

岸田 環境は不透明さを増していますが、「変化の常態化」は以前から胸に刻んでいます。ですから世の中がどう変わろうと、私どもが注力すべきは、市場(現場)で独自の提案力を高めることでしょうね。これは消費財にも生産財にも当てはまります。山善が専門商社として機能し続けるには、営業に携わる者の専門性(技)を高める、これが前提条件ですよ。

と、同時に「心ある専門商社」としてお得意先に寄り添い、新たな価値を提供できるリアルな営業が必要です。つまり、「心と技ある専門商社」を目指すということです。これは、過去から山善の強みでした。その強みをもう一度、はっきり具現化してゆきます。ECやデジタル・AI活用など、商売形態は変化し、戦術もいろいろ必要ですが、大前提として専門性だけでは通用しないし、心だけでも説得力が生まれない。心と専門性を併せ持つ営業パーソンが求められていますね。

具体的にひとつ、当社の産業ソリューション事業部を例にあげると、自動化、省力化、インフラ、脱炭素、環境関係など時代のテーマや関心事に沿う商品群を数多く扱っています。これらの商品を積極的に市場に出していくには、それぞれの分野で専門知識に長け、マーケットを知り、そしてお客様の為にハートで提案できる人財が欠かせません。これは他の事業部も同じで、ツール&エンジニアリング事業部では山善らしい溌溂さで訪問の頻度、提案数を増やします。こういう基本中の基本を強化します。

――今期から海外事業部を新設されましたが、考えは同じ?

岸田 今年4月1日の海外事業部新設は、海外拠点数と人員を順次増やすと、一部のメディア取材を通じて発表しています。具体的には、27年度までに海外生産財事業を、近年の売り上げ800~900億円水準から一気に1200億円台を目指します。その実現に向け、エンジニアとセールスを合わせ200人増員し、グローバルサウス、EMEA(Europe, the Middle East and Africa)など、成長期待の高い国・地域に経営資源を投下します。

――やはり専門性と、山善らしい人間力を重視し…

岸田 そうですね。もっとも、かつてのように日本人が海外に出て現地経営を指揮・執行するイメージではありません。現地化を徹底的に進め、現地の独特なビジネス慣習と顧客ニーズに熟知しているナショナルスタッフ(現地社員)が、各々の国・地域で責任者として活躍できる環境をつくります。それが進んでゆけば、現地の需要やビジネストレンドにタイムリーに応え得る機能的な組織が出来上がり、ターゲット市場が世界中に拡がるわけです。私自身、海外勤務が長かったのですが、こうした組織が成長に最も有効だと、自分の経験からも確信しますね。また、もうひとつ重要なことは、仕入先(パートナー)様とのワールドワイドな関係強化です。これも同時に進めてゆきますよ。

――海外事業部は27年度を当面の目標に設定されていますが、これは今期からスタートする3か年計画「PROACTIVE YAMAZEN2027」の最終年度を見越した主要戦略になるということですね。

岸田 その通りですね。海外ビジネスは徹底的に強化してゆくつもりです。新中期経営計画では、最終年度で全社売上6000億円以上、営業利益160億円以上を目標にしていますが、これは海外強化だけでは達成できません。達成のための条件は繰り返すようですが、すべての事業において専門性を高めることです。そうしなければ、この厳しい時代に「真のお役立ち企業」にはなれません。

中期経営計画に絡めて言えば、前回、前々回ともに「クロッシング」をテーマにしてきました。クロッシングとは、事業部・部門・あるいは人の垣根を越えたつながりを活性化し、相乗的な効果を出そうとの思いを込めた言葉でした。この考えに沿って、社内では既にクロッシング活動があたかもインフラのように定着しました。つまり、これから専門性を随所で強化していっても、それぞれの組織が分断されるようなことはないということです。分野毎にもっと分離していかなければならないけれど、実は相互につながっているという組織体になっていると思っています。そのうえでPROACTIVEに、つまり先回りして能動的に動く山善を、新中期経営計画の定性的な柱に据えます。そうやって「やっぱり山善」とパートナーの皆様に言っていただける存在にしてゆきます。


どてらい市誕生 50年

――ともに、の精神で盛り上げる


――話は変わりますが、今年は展示商談会「どてらい市」が誕生して50年になります。

岸田 そうなんです。私自身、どてらい市には強い思い入れがあります。この大きな節目の年が、日本のモノづくりを応援し、豊かなくらしを実現する機会にしたいですね。50年前を直接知っているわけではないですが、当社も極めて厳しい状況にありました。それまで高度成長を謳歌していた日本経済が、ニクソンショックから急激な円高へ変動、オイルショックと続き、奈落に落ちたわけです。企業倒産も相次いだと聞いています。今は、第47代米国大統領に世界が大きく揺さぶられていますが、当時はそれ以上の苦境だったでしょうね。

そうした逆境のなかで、起死回生となる催し「どてらい市」が生まれたわけです。地域商社様とメーカー様、事務局山善が三位一体となって需要を喚起し、地域製造業の発展に資する機会と商品を提供する。まさに地域活性化のリアルプラットフォームとして、半世紀にわたり機能し続けたといえます。

来場されるお客様も含め、相互に満足できる、WIN-WINづくりの商談会として、変化をしながら今の時代にも大いに貢献できるイベントだと思っています。「人手不足」、「技術(事業)承継」、「技術開発」、「営業力不足」など中小企業様が抱える課題の解決に商品とリアル対話を通じて役立つ催しにします。事務局としての矜持というか覚悟を、我々は持って臨みますよ。

――開催スタイルには変化も見られます。

岸田 ええ。働き方改革が進んだ現在では確かに日曜日開催は難しくなりました。また、昔のようなお祭り的要素も少し薄くなりました。ただそうした時代の変化を受け入れながら、つまり、固定観念を捨て去り、過去とは違うスタイルを模索し、お客様にもっと喜んでいただける「どてらい市」として進化させます。

――最後に岸田社長ご自身のことも少し。まず社員との対話を重視されているようですが。

岸田 「進取果敢な山善パーソンであれ」との思いが強いですね。社長に対しても堂々と意見を述べる若い社員もたくさんいますよ。そういう若手、いや管理職、役員もそうですが、彼らとの対話はとても有意義で、山善DNAの維持に必要です。この姿勢は今後も継続しますよ。――アフター5や休日は?

岸田 そこは充実していないかも(苦笑)。30年動いていないオートバイ (スズキKATANA 750)の再生、古民家を買ってDIY、やりたいことはたくさんあるんですが、現役のうちはちょっと無理かもしれません。よく歴史書を読む程度ですね。妻に「アナタは趣味がないから駄目なのよ」といつも言われています(苦笑)。妻と昭和の喫茶店探しは続けています。



(日本物流新聞2025年5月15日号掲載)