インタビュー
りそな銀行 法人・プレミア戦略部部長 小山 泰志 氏
- 投稿日時
- 2025/03/10 10:30
- 更新日時
- 2025/03/10 10:33
ベンチャー育成、「多産多死」から「中産中死」へ
大阪・関西万博のメインバンクである「りそな銀行」。大阪ヘルスケアパビリオンでのベンチャー企業展示を行う「Resona Mirai Color」での出展をはじめ、ポイントサービス「ミャクポ!」の提供や、「EXPO 大阪ウィーク」や「EXPO EKIDEN」への協賛、「ブラスエキスポ」への社員親子の参加など機運醸成にも積極的に取り組む。そこに、万博を契機に「銀行が変わらなければ」との想いがみえる。ベンチャーキャピタルを中心としたスタートアップ支援は「多産多死」を前提にしがちだ。だが再チャレンジが難しい日本社会には馴染まない部分も。日本社会にフィットした「中産中死」モデルは確立できるか。万博以後も見据え小山泰志部長に聞いた。

――貴行のスタートアップを含めた企業支援は。
「スタートアップは東京と大阪では8対2と東高西低の状態が続いています。大阪でも、優秀な大学などの研究施設にシーズ(種)があるはずなのに産業界に浸透していない。数年前からスタートアップや中小企業の研究シーズをどう世に出していこうかと、積極的にチャレンジしてきました。しかし従来のやり方ではスタートアップと大企業の協働や、大学と大・中堅企業の取り組みを大きく増やすには限界がありました。そのブレークスルーを目指すなか、2月4日に発表した大阪大学との連携協定締結が、ターニングポイントになるかと思います」
■万博契機に、銀行もエフェクチュエーション投資へ
――それはどういったものですか。
「『大学の研究シーズを大企業や中堅企業に利用してもらい、企業成長と研究成果の社会実装につなげる』狙いがひとつにはありますが、正直、こうした取り組みは珍しいものでもありません。この連携の真の狙いは『産業界の研究段階の課題』を大学に持ち込み、それを大学研究で解決するという仕組みを作ること。成功すれば他大学や他地域に横展開をしたい」
「コロナ前までは、『既存事業を続けていけば存続できる』という意識が根深くありました。しかしコロナ禍や、不確実性が増した昨今、『既存事業の延長線上では存続が危ぶまれる』という危機意識が高まり、取引先からも我々へのマッチングを通じたイノベーション促進策に期待が高まっています。ただ、企業に課題があってもどこに持ち込んでいいかわからない、あるいは大学に持ち込もうとしても敷居が高すぎる問題もありました。大学の知財も無暗にオープンには出来ない。そこで『阪大りそな共創HUB』というプラットフォームを作り、民間企業だからこその投資効果に見合う効率性と銀行だからこそのセキュリティーや信頼感を強みにマッチングを進めます」
■金利のある世界再来、次のステップへ
――ベンチャーへの資金面での支援戦略は。
「2年前から専門部隊を作りベンチャー企業への、ベンチャーキャピタルのエクイティ投資とは異なる、融資による資金供給を行ってきました。一定程度プロダクトが市場にフィットしているであろうベンチャーデットにおける『アーリーステージ』を念頭に資金を提供してきた。次のステップとしてディープテックやレーターステージに対する専門ファンドも準備しています。ベンチャーへの資金提供の初期のプレーヤーはこれまで銀行ではなくてベンチャーキャピタルでした。しかし他者の出資で創業者の株が希薄化して、上場したときの創業者メリットが少なくなり、創業意欲を削いでいる問題もありました。銀行への期待感も高まっています。元本の確実な回収という銀行の使命とエフェクチュエーションの最適解を見つける実証実験をしていきたい。これが上手くいけば他行も追従し、ベンチャー企業の資金調達に新たな選択肢が増えるでしょう」
――現在の起業の「多産多死」の状況が、より日本にフィットする「中産中死」に移行できるのでは。
「『中産中死』という言葉を、誤解を招く恐れもあり我々は使っていませんがご指摘の趣旨は分かります。多産を中産に抑えたいとは思っていないですが、大きなリスクを負わない段階で、一定程度市場にフィットできる『研究開発スタートアップ』にブラッシュアップされていけば結果的に『中産』になり、『多死』は防げるかもしれません。『中死』から『小死』へ、多くの企業が健全に生き残ることが、元本の確実な回収という銀行の目的と軌を一にするわけですね」
「金利のある世界が戻ってきて、各銀行の業績予想は上振れを見込みます。このわずかな猶予の中で、次に進まないといけない。コロナと万博で融資先の企業がマインドチェンジしたように、銀行もリスク、コストを体系化によって最小化しつつ未来に投資するエフェクチュエーションの考え方も取り入れていかなければならない」
リボーンチャレンジ四季に準え展示
大阪・関西万博に出展を目指す中小・スタートアップ企業を支援するリボーンチャレンジの実施主体として最大の38企画(44社)をサポートするりそなグループ。未来を見据えた「ミライの医療」、「ミライのメトロポリス」、「ミライと和の調和」、「ミライのテクノロジー」を「四季」に準えて合わせて4週間の展示を行う。「総エントリーは200社以上あり、審査員が『5年先、10年先に社会実装されればワクワクするもの』をテーマに絞り込みました。当初はどんな木に育つかわからないシーズでしたがワークショップを通じて我々銀行から見ても未来が想像できるまでブラッシュアップされました」(小山部長)とした。
(日本物流新聞2025年3月10日号掲載)