インタビュー
シャープ スマートビジネスソリューション事業本部 ロボティクス事業統轄部 ソリューション推進部 参事 宮﨑 篤史 氏
- 投稿日時
- 2024/12/24 09:43
- 更新日時
- 2024/12/26 11:16
量子技術でロボ1000台超同時制御
シャープが物流分野の開拓に力を入れている。『世界の亀山』で知られる同社の亀山工場などで磨いた生産技術ノウハウの外販を2017年に始め、23年には多階層ロボットストレージシステムを市場投入することで、工場や物流倉庫の搬送から保管まで一貫して対応できる体制を整えた。同事業を推進する同社スマートビジネスソリューション事業本部ロボティクス事業統轄部ソリューション推進部参事の宮﨑篤史氏に話を聞いた。
――物流分野の開拓に力を入れていますね。
「私が所属しているロボティクス事業統轄部は元々、2017年に当社工場で活用・培ってきた自社製AGVや生産工程の効率化ノウハウを他社工場にも展開できないかと立ち上がり、主に工場内の搬送工程の自動化・省力化を手掛けてきました。そうした中で、2024年問題など課題が多く残る物流分野でも当社の技術が活用できるとみて、昨年、保管機能を持つ『多層階ロボットストレージシステム』を上市しました」
――同システムの特徴は。
「倉庫のワンフロアを2階層化したロボット走行路とAGVを上げ下ろしする垂直搬送機、ピックステーションからなり、そこをAGVが走りまわることで商品棚やパレットなどを搬送・保管できるシステムです。最大の特徴は多階層で保管できるということ。従来の棚搬送ロボットは、棚の高さがせいぜい2㍍くらい。それに対し、一般的な倉庫の天井高は6㍍ほどであり、上部空間を上手く使えていないケースが多々ありました。当社の製品であれば多階層化し空間効率を高められます。また、2階の床がフラットなので、棚だけでなくパレット品や大型・長尺部品などを一緒に保管することができるのも特徴です。そのため、どういった荷姿の荷物をどのくらいの割合で保管するかはお客様の自由です。運用時の柔軟性が非常に高いシステムであると考えています」
――幅広いニーズに対応できるのですね。
「当社が手掛けるAGVも、主に5タイプ(TYPE A〈標準型〉、S〈スリム型〉、G〈高重量搭載型〉、GTP〈リフトアップ搬送ロボット〉、CUBE〈小型〉)用意をしていますが、多くの場合、そこからお客様の要望に合わせて多種多様なカスタマイズを施しています。そのため、他社製品では対応できなかったり、断られたお客様から、『こういう使い方をしたいのですが御社ならできますか』とお声かけいただくことも多いです」
■量子技術を活用
――ソフトの開発にも力を入れていますね。
「ロボットのコントロールシステムにも力を入れていて、17年時点で20台であった同時制御台数は22年時点で500台以上の実績があります。さらに、26年までには1000台以上の制御を実現していきたいと考えています。これには、現在の古典コンピューターの技術だけでは実現が難しいため、当社では『シミュレーテッド量子アーニング(SQA)』技術の開発を進めています」
――SQAとはどういった技術ですか。
「量子技術を量子コンピューター上ではなく、一般的に使われている古典コンピューターでシミュレーション(再現)する独自技術で、飛躍的に計算量を向上することができます」
――SQAを実現することでどのような未来を見ていますか。
「例えば、物流倉庫を営業するにあたって重要となるオーダー情報や当日の作業人数、ロボットの配車可能数、商品配置などに加えて、季節などの環境情報やサプライチェーン全体の情報などを一緒に分析にかけ、庫内の全体最適を測っていきたいと考えています。『次世代SQAロボットストレージシステム』として提案しているのは、商品棚だけでなく、出荷棚やピッキンクステーションでさえAGVで移動可能としたもの。先に挙げた様々なデータを組み合わせて分析にかけることで、全体最適となるようレイアウトやロボット配備を随時変更できるシステムを想定しています。これにより、従来のように波動のピークに処理能力を合わせて長大な設備投資をせざるを得なかった状況を抑制することが可能になるのではないかと見ています」
(日本物流新聞2024年12月25日号掲載)