インタビュー
ワルタージャパン 代表取締役社長 チェティン・セルカン 氏
- 投稿日時
- 2024/10/01 16:35
- 更新日時
- 2024/10/01 16:41
豊富なレパートリーと高生産性工具で日本市場浸透へ
1927年、世界で初めて超硬工具を開発、特許取得した独・ワルター。旋削、ミーリング、穴あけ、ねじ切り加工向けなどを中心に4万5000ものアイテムを有し、高品質切削工具を世界に届けている。日本法人として2008年に設立したワルタージャパンは、ミーリング工具を主力として、同社の技術を伝えてきた。「さらにラインナップを拡充し、日本のニーズに合わせて広く届けたい」と話すチェティン・セルカン社長に今後の戦略と同社の強みを聞いた。
――近頃の景況感は。
「グローバルで見ると地政学リスクや中国の失速など、市場変化のインパクトにより日本も影響を受けています。しかしQ2は好調で、前年同期比で30%アップを達成しました。当社が得意とする重電向けの大型プロジェクトや航空機産業の復調、春に行ったキャンペーンの成功などがQ2の好調の要因です。特に、あるキャンペーンでは計画の約10倍の受注を獲得しました。今秋には旋盤チップとドリルのキャンペーンを用意しており、Q3以降も市況感も相まって期待が持てる見通しです」
――特に売上に貢献している製品・分野は。
「総合切削メーカーとしてどの製品もバランスよく、得意とする超硬ミーリング工具をメインにして伸長しました。分野としては航空機やエネルギー分野で受注を獲得しました。好調な市場はありますが、国内の自動車産業がフラットな点は懸念点です。国内・外の需要のバランスに対しても当社は合わせていかなければなりません」
――目下、注力されることは。
「販売ネットワークの強化と、その新規開拓です。当社では販売に貢献してくださる代理店様を『チャネルパートナー』と呼び、非常に重視しています。独のワルターは世界的に知名度が高く、直販店もありますが、日本市場での認知度向上はこれから。チャネルパートナーの存在は大切です。当社の技術と製品を届けるため、イベント等を通して彼らパートナーとの取り組みを強化します」
――強みであるミーリング工具のラインナップを増やしています。
「刃先交換式ミーリングカッター『Xtra・tec(エクストラテック) XTシリーズ』はボディーとチップを小型化しつつパワフルな切削能力を備えた、超硬工具の当社の豊富なノウハウが詰まった製品です。チップ部の断面積やボディーとチップの接触面、チップ座の厚みを増やして拘束力を高め、コンパクトでありながら剛性を保ち高い切削能力を維持しました。設計の見直しによって従来よりも多くのチップが配置可能に。多刃仕様工具でテーブル送りを上げることで速く削れます」
――近年の加工ニーズにも応えます。
「EVをはじめとする各産業で部品の小型化や、鋳造や鍛造技術の進歩によるニアネットシェイプ化など、削りしろの小さなワークが増え、小型のチップやボディーのニーズが高まっています。ハイパフォーマンスとコストを両立した、最も汎用的で生産性が高いバランスのよい工具として加工トレンドに応えます」
――CO2削減も大きなトレンドです。
「Xtra・tec XTシリーズは、カーボンオフセットプログラム『Walter Green (ワルターグリーン)』の対象製品です。原料調達から在庫としての工場や倉庫への配送まで含めて、すべての工程中で排出されるCO2量をISO14064の規格に基づいて算出し、生産工程で排出したCO2を吸収できるだけの植林活動を行うことでカーボンオフセット100%を達成しています」
■グローバルで一体となって技術ニーズに応える
――中長期的な目標は。
「お客様の技術ニーズに応える特殊工具に力を注ぎたいですね。複雑な特殊品こそエンジニアノウハウの真価を発揮できるところですから。日本でも複雑な特殊工具の設計が可能で、今年に入ってから設計エンジニアをさらに増員して対応を強化しています。独の本社にも特殊工具が専門のグローバルなエンジニアチームがいますので、彼らと力を合わせて日本のお客様にソリューションを提供します」
「また、特殊工具の短納期製作システム『Walter Xpress』を使うことで、お客様の製造現場でも簡易的な特殊品の設計が可能です。標準品をベースに、工具の形状や寸法をカスタマイズし、およそ10分で特注品を設計し見積もりを提示できます。お客様との打ち合わせ中にその場で承認が得られれば、ワンクリックで海外工場にオーダーが送られ製造開始。納期はおよそ4週間と、クイックネスという面では国内メーカーと肩を並べられる短さで特殊品をデリバリーできます。図面や加工条件、そのまま機械に載せられる加工プログラム作成や見積りなどのシステムとも繋がっており、ワンオペ、ワンクリックですぐに特殊品に対応できます。製品の品質や加工ソリューションに加えて、優れたソフトウェアの力で短納期というさらなる付加価値を提供します」
「当社は1927年に世界で初めて特許を取得して以来、超硬工具を手がけてきた長い歴史と蓄積してきたノウハウがあります。独の本社は日本市場を重要なマーケットとして捉えており、人員増員に対するサポートやトレーニングにもリソースを割いています。パワフルでレパートリ―が豊富な当社の工具は、日本のお客様にきっとご満足いただけるはずです」
Xtra・tec (エクストラテック) XTシリーズ 肩削りカッター「M5130」は設計の見直しにより小型化しつつ、高い剛性と多数のチップ配置を実現。チップ一枚当たりの切り込み量を抑え、高速送りにより加工時間を短縮できる
■充実したデジタルツール
スマホアプリやソフトなどデジタルツールにも力を入れる。「Walter GPS」は加工内容から工具や切削条件、寿命予測、工具コストを算出することができる。あるいは工具ごとに対応する被削材と切削条件などを計算することができる。「多品種少量生産の時代、製品が変われば工具も加工も変わる。Walter Xpressですぐに特殊品をお届けし、Walter GPSが最適な工具と切削条件をすぐに導き出す、時代の流れに沿ったデジタルツールも強み」と言う。
(2024年9月25日号掲載)