インタビュー
シマダマシンツール 代表取締役 島田 雅宏 氏
- 投稿日時
- 2024/03/29 09:00
- 更新日時
- 2024/03/29 09:00
多軸と自動化で加工のベストタイムを叩き出す
2、3、4、6、あるいは8つ。シマダマシンツール(旧嶋田鉄工所)が手がける多主軸旋盤は文字通り複数の主軸を持ち、ゆえに生産性が非常に高い。サイクルタイム(CT)が3秒未満になる例もあるほどで、さらにロボット等の自動化装置を組み合わせてユーザーの競争力を引き上げる。4月にはシチズンマシナリーの6主軸旋盤事業を承継。一方でより汎用的に使える2主軸NC旋盤の新鋭機も展開する。「多主軸旋盤専門」という世界でも稀なアイデンティティを磨き抜き、最短のCTを目指すユーザーに伴走する。
――多主軸旋盤を主力とされています。
「量産加工に特化した6あるいは8つの主軸を持つ多軸自動盤と、汎用性を高め複合加工にも対応する2・3・4主軸旋盤を手がけています。共通点は『多主軸』とそれに起因する生産性の高さ。6・8主軸機は主軸の数だけ工程を分割し一斉に加工するので早ければCTが3秒未満と非常にハイスピードです。ロボットや搬送、箱詰め装置など周辺機器もセットで提供します。売上の約7割は自動車向け。CTを最短にしたい量産ユーザーがメインです」
――独自の立ち位置です。
「多軸自動盤メーカー自体が私の知る限り世界で10社に満たない程度。今やアジアで唯一ではないでしょうか。我々の規模で欲張って多くの個性は持てません。私の祖父が作り父が受け継いだ多主軸という個性を磨き、様々な機械を開発しています」
――MECT2023では脱着用の主軸が機外にある、ユニークな構造の2主軸NC旋盤「2SI-8 Mk-Ⅱ」を披露されました。
「主軸を加工と脱着に分け、テーブル上の2本の主軸がテーブルの旋回に伴い加工室の内外を行き来する構造としました。片側主軸の加工中にもう一方の主軸で脱着できるため、主軸が入れ替わる約2秒以外は常に加工が可能というコンセプト。開発の発端は現場でよく目にする光景でした」
――詳しくお願いします。
「お客様の現場では企業規模を問わず手付でワークを着脱する場面を頻繁に見ます。またアンローディング後すぐ次の加工に移らず、検査や洗浄を挟む例もしばしば。切粉が出る時間が唯一お金を稼げる時間にも関わらず、機械が平気で1分くらい止まっているわけです。この『切粉が出ない時間』をなくすというのが2SI-8 Mk-Ⅱの出発点でした。使い勝手や機能は一般的なNC旋盤と同等。Y軸や回転工具、心押し台で幅広い加工に対応します。機械上部のロボットで着脱も自動化できます。ワークの表裏を1台で加工でき工程集約も可能です」
――一般的な2軸旋盤との違いは非加工時間の短さですね。
「ええ。平行あるいは対向2軸旋盤も工程集約は可能ですが、ワーク脱着時間のような切粉が出ない時間があるのは単軸旋盤と同じです。またマルチタレット機も1工程と2工程の加工時間に差があれば、結局は片側の主軸に待ちが生じます。2SI-8 Mk-Ⅱのようにタレットに対し『余分な主軸』を持てばこの問題は解決できるんです。また搭載する多関節ロボットは着脱以外に計測や洗浄など様々な作業が可能で、ガントリーより自由度が高い。ロボットを機械の肩に載せれば機械前面に設置するより面積も少なく済みます」
■承継事業を戦力へ
――4月にシチズンマシナリーの6主軸旋盤事業を承継されます。
「元から6主軸旋盤は手がけていますが、我々の機械とシチズンマシナリーさんの『カム式』は構造がやや異なりお客様の層も違う。端的に言えば機械式時計のようにカムとギヤの連結で動くのが継承した6主軸旋盤で、我々の機械は各部が独立制御。カムの利点は圧倒的なCTの速さです。我々の6主軸旋盤も単軸旋盤のCTを軽く凌駕しますが、『究極のスピード』を求めるとカム機構に行き着く。こうした良さゆえ我々が手薄なベアリング業界等に深く浸透しています。メカとしても非常に美しく、ご縁があり我々が事業を引き継げるのは幸せなこと。新たなユーザー層も開拓し、しっかり我々の戦力に育てます」
――足元の景気は。
「絶好調とは言いませんがそう悪くもありません。アジアに勢いがあります。中国向けも落ちておらず出荷台数が年々増えています。最短のCTを提案するという我々の機械のコンセプトがプラスに作用していると感じますね。これで欧米の景気が上向けばかなり忙しくなるでしょう」
――開発の方向性は。
「『非加工時間をより短縮する』、あるいは『常に切粉が出ている機械』というコンセプトはそのままに、我々の機械の良さをより発揮できる領域へ対応の幅を広げたい。例えばワークが大型であるほど着脱に時間がかかり非加工時間も長くなるため、より大型機を開発するなどです」
シマダマシンツールがシチズンマシナリーから受け継ぐMiyanoブランドの6主軸旋盤「MM16」
良さを知るからこそ
多主軸という個性を磨き続けるシマダマシンツール。4月にシチズンマシナリーの6主軸旋盤事業を引き継ぐが、2011年にも北川鉄工所から4主軸旋盤事業を承継している。譲渡された事業を伸ばすにはかなりのカロリーを要するが、こと同社においてその点は問題なさそうだ。「20代の頃から北川鉄工所さんの4主軸機が大好きでした」と島田雅宏社長は朗らかに言う。「展示会でも見ていて飽きないというか、良い機械だとずっと思っていたんです。シチズンマシナリーさんの6主軸機もメカとして非常に美しい。どちらもすごく思い入れがある機械。だから良さもわかっています」
(2024年3月25日号掲載)