インタビュー
オークマ 取締役常務執行役員 千田 治光 氏
- 投稿日時
- 2024/03/28 14:57
- 更新日時
- 2024/03/28 15:01
脱炭素を切り口に自動化への強固な土台を提供する
オークマは昨年、世界最高レベルの「高精度と省エネ性能」を実現するGreen-Smart Machine (以下GSM)のCNC旋盤「LB3000 EX Ⅲ」と立形マシニングセンタ「MB-46VⅡ」を発売。省エネ技術を搭載していない同等の機械に対し、消費電力を約15%削減(同社試算値)するなど脱炭素へのコミットを強める。技術部本部長を務める千田治光常務に脱炭素への取り組みなどを聞いた。
――GSMなどで社会課題解決を見据えた動きが顕著ですね。
「高精度と高生産性と省エネを兼ね備えたスマートマシーンをすべての土台にし、スマートファクトリーソリューション、モノづくりDXソリューションと価値創造のプロセスを描いています。その中で、自動化と脱炭素を通じユーザーのビジネスの発展に貢献するとともに、環境問題だけでなく人手不足に起因する諸問題や安心安全なモノづくりを担保するセキュリティーなどの社会課題の解決につなげていきます。それを具体的にしたものが成熟度モデルでスマートマシーンをレベル1とし、レベル2でスマート加工セル、3でスマート加工セルの工場への拡張と段階を踏みレベル6で加工工場経営を最適化するモノづくりDXソリューションを目指します」
――GSMの製品やその機能として目に見えているものは一連の流れの要素なのですね。
「サーモフレンドリーコンセプトによる『寸法精度の安定性』と『ECO suite plus』による『消費電力の削減』をGSMのわかりやすいセールスポイントにしていますが、成熟度モデルをご覧いただければレベルが上がるほど自動化が進んでいますよね。つまりGSMの真の狙いは『自動化をメインにした様々な施策』の土台なのです。完全な無人化を見据えるからこそ、人が調整しなくても済むように、寸法精度の安定性に徹底的にこだわっています」
――開発者としてサーモフレンドリーコンセプトのこだわりポイントは。
「人間は、『熱くなるとモノが伸びる』という感覚を持っていますよね。設定によっては、温度が上がれば加工寸法変化を小さくすることも可能ではありますが。誤差をゼロにすることは不可能なので、ならば誤差の出方を人間の感覚に合わせようとしています。熱変位補正システムと思われがちですが『温度変化を受け入れる』という考え方(コンセプト)です」
――今日的な問題への対応は。
「デジタルネイティブの人材が現場に増えてきていますが、彼ら彼女らにはバーチャルとリアルの境目がない傾向があります。事務所でバーチャルでプログラムを作り、現場で実際に加工します。デジタルネイティブ世代はよく、原点設定を、現物を見ずにNC画面のバーチャルでするんです。前の世代なら、工作物を見ながらチェックしますよね。チャッキングミスなどでリアルとバーチャルがズレる可能性がありますから。人がいなくなる問題だけでなく、人の在り方が変化する問題にも対応を迫られています。ユーザーからの相談件数を分析すると2013年ごろから高精度要求が高まってきています。高精度化の時代の流れはご承知の通りですが、同時に要求精度100分の4以下の問題も増えています。つまり、モノづくりの基本を知らない人が現場に増えていて、ノウハウの伝承問題の顕著化です」
■Gコードがわからなくても加工可
――新世代CNC「OSP-P500」はそうした問題にも対応されていますね。
「基本的な加工はGコードの知識がなくてもプログラム作成が可能です。また加工前の段取り一つ一つの作業手順を覚えなくても初心者にわかりやすくガイドします。他方、企業の競争力のキモは蓄積されたプログラムの中にあります。Gコードレスにするとそのプログラムが活用できない。そこでレガシーとして蓄えられたプログラムを組み合わせることを可能にしています」
――プログラムレスで簡単に扱えるという点では、多品種生産に適したロボット加工セル「smarTwinCELL」も。
「従来ですとロボットプログラムを書かないといけませんでしたから専門のスタッフが必要で中小企業では導入が難しかったのですが、smarTwinCELLは工作機械オペレーターなら簡単に使えます。ほかにもロボットをビルドインしたARMROIDや移動式の協働ロボットOMRなども中小企業が入れやすいものです。ARMROIDは使わない時にはロボットを仕舞っておき、人がいない時には自動で加工。『人と機械で業務シェア』を行います。OMRは移動式で最大10台の工作機械、30種類のワークが登録できます。ビジョンセンサーでロボットの位置関係を自動で認識します」
立形マシニングセンタ「MB-46VⅡ」
厄介者のスラッジの解決
千田治光常務が「新入社員の時に掃除させられて、本当に嫌だった」と振り返るスラッジ(不純物)がたまったタンクの清掃。腐敗した切削液で悪臭がひどく面倒なうえ、タンク清掃中は長期にわたり工作機械が停止する。まさに現場の厄介者だ。同社のスラッジレスタンクは切削液の流速をタンク内で一定速にコントロールすることでスラッジを沈殿させることなく回収。三種類のろ過装置で確実に除去する。機外コンベヤ搭載型のマグネットセパレータ(特別仕様)を選択すれば自動回収も実現できる。
(2024年3月25日号掲載)