インタビュー
フジ産業 京都営業所 所長 橋本 一志 氏
- 投稿日時
- 2023/09/29 16:55
- 更新日時
- 2023/09/29 16:59
万人が触れる機械をあらゆる産業へ
オーダーメイドの長尺加工機を手がけるフジ産業が好調だ。主力のアルミ以外にも、鋼材や樹脂などあらゆる産業の長尺ワークの軽切削に機械を提案。価格と対応力を武器に、景気の浮き沈みをものともしない独自の成長路線を確立している。「高精度だけが加工じゃない」と京都営業所の橋本一志所長は言う。10月に開設する京都展示場の狙いと合わせ、同社の動向を聞いた。
――オーダーメイドの長尺加工機を得意とされています。
「創業38年ですが、一貫してサッシやドアフレームなどアルミの長尺加工を主力としてきました。精度や加工材質など要望に合わせオーダーメイドで製作します。ワーク長さは2~10㍍が主ですが30㍍の対応実績もあります。また私が担当する中部以西は鉄加工の需要が高く、近年はこれに向けた長尺加工機がアルミに次ぐ柱に育っています」
――鉄向けが好調な理由は。
「我々が得意なのは形鋼やパイプなど、いわゆる『単純材』と呼ばれる領域。百分台の精度は不要で、ユーザーの大半はそこまでハイエンドな機械を求めていません。しかし長尺の単純材を加工する機械は市場に少なく、多くの現場が高価な門形加工機や手作業で加工しています。我々はそこへ、場合によっては他社の半額以下の価格でM24までの穴あけができる機械をオーダーメイドで提供します。従業員10人以下の企業も導入でき、償却期間も早い。まさにお客様の『ほしい』に我々の機械がマッチしているのでしょう」
――全体的な需要も好調ですか。
「コロナ禍も含め一貫して好調ですね。リーマンショック以降、常に忙しさが続いています。理由は複数ありますが、まずはユーザーの裾野が非常に広いこと。我々の機械は価格競争力が高く、工具商社でなく溶材商社経由で溶接の一次加工向けに導入頂く例が増えています。産業機械のフレームやパイプの溶接前に穴をあけるような、元は人手だった加工を取り込んでいるわけです。また近年は人手不足も深刻。鋼材商社は指定された寸法に鋼材を切断して卸すのが通常ですが、卸先の現場に人がいません。そこで鋼材商社が我々の機械を導入して一次加工まで行うケースもあります。一般的に工作機械を使わない産業も、実は価格さえ合えば工作機械が活躍する仕事が山のようにある。その隙間にうまく入り込めています」
――工作機械に慣れていないユーザーは操作が課題となりそうです。
「操作が簡単な対話式プログラムを搭載しており、最近では英語と韓国語以外にベトナム語にも対応しました。また並行して機械操作のさらなる『簡略化』も進めています。CAD/CAMベンダーと共同でエクセルで加工プログラムを作成できるソフトを開発し、複数の現場へ納入しました。導入先では実際、図面の読めない女性が数字を打ち込むだけでプログラムを作成しています」
――加工の素人でも触れるようにしたわけですね。
「現場は人手不足でお困りですが、一方で育児中の時短勤務の求人は少なく、ミスマッチが生じていました。そこで共通ツールであるエクセルを使い、機械オペレータとプログラム作成者をソフトで分離したわけです。また長尺材は重く、長く、傷つきやすいため段取りに時間もかかる。プログラム作成に手間取ると機械の稼働率が下がってしまいます。フジ産業はユーザーニーズを最も大切にしており、そのためなら他社との協業も柔軟に進める企業文化です。話は逸れますが、切削以外にガラス加工用の研削盤を製作した例もあります。エンドミルも自社開発しているほどです」
■あらゆる産業がターゲット
――10月に京都展示場を開設されます。概要と狙いは。
「静岡の本社は、関西以西からすればアクセスが悪く陸の孤島でした。展示場(長岡京市)は京都駅から車で10分、中小企業の集積地でもあります。アルミの複合加工が可能な長尺加工機や鋼材向け長尺加工機など、機械は常設で3台。実は正式オープン前に稼働を始めており、すでにテストカット依頼でフル稼働状態です。だから展示機はすでにやや汚れています。ぜひもっと汚しに来てください」
――最後に、少し長い目線で今後の方向性を。
「我々の機械の対象は、椅子も環境材も鉄道車輛も住宅も産業機械も含めたありとあらゆる長尺材。日本全国にさらなる需要があるはずで、販売店さんの協力を仰ぎ、岡山以西の販路を増やしたい。また機械の進化という点では、より使いやすく触りやすくしたい。工作機械の操作パネルは大型化する傾向にありますが、私達が目指すのはスマホやタブレットで動かせる工作機械。万人が使える機械なら、若手が製造業で働くハードルも下がるでしょう」
鋼材加工に向く高トルク高剛性の「FB-5000-20ATC-S」。京都展示場にはこの機種を含め3台の機械を展示し、いずれもテストカットに対応する
単純化に終わりなし
エクセルで加工プログラムを作成できるソフトは、切断や穴あけ、タップ加工など様々な種類の加工に対応。エクセルは入力ミスを防ぐフォーマットで、使い手をまったく選ばないという。これだけでも使いやすそうだが、橋本所長はさらに先を見据える。「形鋼はJISで規格が決まっており、それをすべてフォーマット化してしまえばさらなる操作の単純化が果たせるはず」。独自の路線で、工作機械メーカーが切り開いてこなかった市場を開拓する。