インタビュー
中村留精密工業 代表取締役社長 中村 匠吾 氏
- 投稿日時
- 2023/09/21 09:42
- 更新日時
- 2023/09/21 09:46
新工場「MAGI」始動、複合加工機の普及加速へ
「我々には利益より優先すべき目標があり、それは製造業の現場の負担を削ることだ」。中村匠吾社長はまっすぐにそう言い切る。多品種生産と人手不足に立ち向かううえで、同社が手がける複合加工機は有効な手段になる。7月に竣工した新工場「MAGI」や新たに発表した複合旋盤も、見据えるのは現場負担の軽減と複合加工機のさらなる普及だ。
――直近の景況は。
「全体的には落ち着いています。欧米はややスローで、引き合いを決めきるまで時間がかかる傾向にある。ただ確実に良い領域もあり、例えば欧米は複合加工機で工程をまとめ、ロボット等で自動化を行う大型案件が活発です。アジアも中国を除き安定的。日本も継続的な受注を取れています」
――国内の複合加工機市場が広がっていると。
「工程分割の多い日本も、欧米からやや遅れて工程集約がトレンド化してきました。1工場に1台の複合加工機というイメージで、以前は俎上に上らなかった案件が数年越しで進んでいます。超大量生産の時代から多品種生産に変わり、現場の人手不足も深刻化。工数をかけず加工したいという、我々の腕が鳴る案件が増えています」
――好調な製品は。
「シェアの高いマルチタレット型複合加工機は市況によらず安定した受注を獲得しています。またATC付きの大型複合加工機は5年前と比べ出荷台数が倍増しました。多品種を1台で加工するために複合加工機の『守備範囲』が広がったことや、ATCで手離れをよくしたいユーザーニーズが背景です。我々は1タレット、2タレット、3タレットの機種を標準で持ちます。月産数十個の多品種生産なら1タレット機で対応し、量産なら2タレット機による同時加工でサイクルタイム(CT)を縮め、秒単位のCTを追うなら3タレット機の出番。このすべてに応えられるのも台数増加の理由です」
――第13工場「MAGI」を新設されました。背景は。
「昨年度の売上高は約261億円。今後は300、400億円へ拡大させる計画です。旋盤とMCで加工を行う現場は非常に多く、我々は複合加工機のパイオニアの1社として、この潜在市場へ工程集約を普及させる責務があります。今後も多品種化は進むでしょうし、オペレータは全世界で不足しています。手札に複合化という切り札がなければ、変化に対応できず危機に瀕するかもしれません。工程集約をより加速させるため、まずは我々自身が変わるべくMAGIを作りました」
――新工場の概要は。
「コンセプトは3工場を1つにすること。既存の11・12工場と内部でつながっており、三位一体で機能します。人と物の集約で効率が上がるのはもちろん、生産方式も一気通貫型へ変えます。生産能力を35%向上させ、月100台強の生産台数を200台へ高めます」
――35%増は相当の効果です。
「従来は主軸など各ユニットを7・8工場で組み、11・12工場に運んでベッドに搭載していました。この方式はユニットを載せた後の調整が鬼門。長引けばピーク時にスペースが足りず、生産台数が減ります。しかし我々の理想はポン付け。そこでユニット単位で精度を出す方式に変え、ある機種は3日だった最終組立を1日にしました。ユニットは新工場の2Fで組み、材料や完成品はAGVが夜間に運び、自動倉庫へ格納。人が動く必要もありません。ユニットを作り込むので品質も向上します。建屋は単なるハード。我々はこれを機にソフトを変革します」
新設された第13工場「MAGI」(写真右)は11・12工場と三位一体で機能する
■時と負担を削る複合加工機
――「最速の、その先へ。」を掲げる新たな複合旋盤「WY︱100V」を発表されました。
「マルチタレット機を選ぶのは、工程を集約しつつ生産量も上げたいということと同義。現場では数秒でもCTが縮めば喜ばれますが、我々はこの機械で30%のCT短縮という野心的な目標を達成しました。鍵は軸移動における加減速の高速化と加工能力の向上、そして新技術『クロノカット』です」
――クロノカットの中身は。
「詳しくはMECT2023でお見せしますが、端的に言えばアイドルタイムを短縮するソフトウェア技術。文字通り時を削るわけで、ソフトが機械動作を変える時代が来たと言えます。我々には利益より優先すべき『製造業の現場の負担を削る』という目標がある。製造業の悩みは需要の山谷で、フレキシブルな複合加工機で工程を集約し、あらゆるニーズに対応できる体制を作るのが有効な対策です。さらにCTを上げて生産量を増やせれば、お客様は本当に楽になるはず。今後も負担を削る方法を社員全員で考え抜き、それを結集して世の中に届けます」
MAGIに隠れた複合的な由来
社内公募で決まった新工場「MAGI」の名は、新約聖書に登場する「東方の3賢者」を指す。彼らのように三位一体で物事を成し遂げ、知恵を集めたスマート工場を目指す意味を込めたという。またMAGIは魔法(Magic)の語源でもある。「複合加工機は6台の加工機を1台にまとめることも可能で、テストカットでも驚かれる。魔法のように負担を削る機械という意味も込めました」