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インタビュー

NKE 代表取締役社長 中村 道一 氏

投稿日時
2025/10/15 16:15
更新日時
2025/10/15 16:21

新型エアチャック発売 
誰も思いつかなかった「新機構」

搬送機器や自動化機器の設計・製造・販売を手がけるNKE(京都市)は、産業用ロボットや自動化ライン向けに新型エアチャック「UltraForce(ウルトラフォース)シリーズ」を開発し、9月1日に発売した。同製品は把持性能を示す指標「GPI※」で従来比3倍以上を達成し、業界最高水準を実現。ロボットの可搬質量制約や省エネ需要といった現場課題に応えるものだ。中村道一社長に聞いた。

ウルトラフォースを前に話す中村道一社長

――1つのポートによるエア駆動で二段階の動作を実現し、把持力とコンパクト性を両立しました。開発の経緯は。

「開発には8年を費やしました。従来は四つ爪チャックを製造しており、シリンダをつなげることで4点接触のグリップ力を得ていました。この発想を応用し、ストローク用シリンダと把持力発生用シリンダを2つ同期させれば、省エネで始動しつつ強力な把持が可能になるのではと考えました。この仕組みにより『小型・軽量』と『高把持力・省エネ』を両立し、エア消費量やCO2排出量を約半減できました」

――電子制御ではなくエア回路のみで実現したのが特徴ですね。

「小・大ピストンを電子制御で切り替えるのは難しくありませんが、あえて『エア回路』だけで実現したのが今回の味噌です。機械部品はできるだけ少なく、フットプリントも小さい方が望ましい。元々はイタリアの有力メーカーの性能を超えることを目標にしましたが、従来の手法では困難で、発想を転換したことが新機構につながりました」

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ウルトラフォースの内部構造

――具体的な仕組みは。

「今回の特許技術『シーケンスシリンダ機構』です。グリップ時に切替ピストンが動き大シリンダにエアを送り把持力を発生させます。切替時にわずかなタイムラグは生じますが、全開で約0.7秒。実用上問題のない範囲です」

 ――耐久性はいかがですか。

「コンパクトボディーで強力な力を出すと、一部を強化すれば別の部位に負荷がかかります。解析だけでは解決できず、トライ&エラーを繰り返しました。従来製品同等の500万回耐久を目標(目標クリア後も1000万回までテスト継続)に試験を行い、450万回で折れてがっかりしたこともありましたが、最終的に完成にこぎつけました」

――「スクリューカム機構」も導入していますね。

「シーケンスシリンダ機構は特許を取得しましたが、リバースエンジニアリングの懸念もあります。そこで肝となるのが『スクリューカム機構』です。ありふれた仕組みですが、極めて高精度・高強度が要求され、加工難度の高いコア部品です。微細工具は5個の部品を作れば精度が落ちるほど繊細。外注すれば10万円近くかかるため、価格優位性は失われます。当社の高度な自社加工力があって初めて可能となり、結果的にブラックボックス(模倣障壁)となっています」

――市場での可能性は。

「協働ロボットへの適用も期待できます。可搬重量内でこれほどの把持力を発揮するチャックはなく、新しい展開につながります。GPI(Grip Performance Index)では『世界最高峰』と謳っています。本当は『世界一』と書きたかったのですが、全世界を調査しきれず、そこは控えました(笑)」

――経営戦略上の位置づけは。

「売上予測は難しいですが、当社は開発型メーカーであり、オリジナルの機構を生み出せるモノづくり力が重要です。『誰も思いつかなかったメカニカルな機構を作れる』という技術力は、顧客課題の解決と企業ブランドに直結します。ただ、中小企業の弱みは、良いものを作っても普及させる発信力。今後はPR強化と、地道な提案活動を両輪で進めます」

※GPI = 本体質量(g)÷( 把持力(N)× ストローク長さ(㍉) )



(日本物流新聞2025年10月10日号掲載)