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インタビュー

牧野フライス製作所 LASER事業部 プロジェクト管理部 シニアスペシャリスト 和田 広之 氏

切断面が垂直なウォーターガイドレーザー加工機

マキノと聞けば金型や航空機部品の加工を思い浮かべないだろうか。ところが近年は半導体分野でも存在感を発揮している。同社が2020年11月にレーザー加工機事業に参入し、サブミクロオンオーダーの微細加工分野に進出したからだ。いま力を入れるウォーターガイドレーザー加工機はとんでもない加工性能をもつ。

わだ・ひろゆき 1964年東京生まれ。長く放電加工機の開発に携わった後、2013年からLASER事業部でプロジェクトを管理する。月に一度のゴルフのほか、エレキギターと多趣味。「エレキギターは若かりし頃、バンドを結成しライブ活動をやっていました」

レーザーで半導体分野を深堀

――金型分野に強く、マシニングセンタ(MC)や放電加工機をラインナップする貴社がどうしてレーザー加工機事業に参入することに?

「当社は社名にあるように『立フライス盤Kシリーズ』、日本最初のNCフライス盤を1958年に開発し、その後MC66年、国産第1号)、放電加工機(75年)、金型向け微細加工機(iQ5002016年)、細穴放電加工機(18年)などを製品化してきました。主に金型や航空機産業向けに切削および放電加工の技術を追求してきたかたちです。ところがお客様の加工対象物の材質が金属から非金属に広がり、とりわけ半導体製造装置の構成部品材質としてシリコン、高純度アルミナ、SiC(シリコンカーバイド=パワーデバイス用材料として期待される)などを加工する必要がでてきました。これらの脆性材は切削、放電加工では難しく、研削加工でも砥石がすぐに摩耗したり折れたりします」

「そこで202011月にレーザー加工機事業に参入しました。脆性材の加工ニーズは増えていくことがわかっていましたから、それに対応できる加工機をラインナップに加えようと、その年のJIMTOFに間に合うように製品化したのがウォーターガイドレーザー加工機『LB300』(3軸仕様)と『LB500』(5軸仕様)です。ただしその年のJIMTOFはコロナ禍でオンライン開催となり、実機をお見せすることはできませんでした」

――後発メーカーが参入するには製品に際立った特長をもたせる必要があります。

「このレーザー加工機は細い水柱が誘導するかたちでレーザービームが照射されるユニークなマシンです(水に最も吸収されにくい波長532ナノ㍍のグリーンレーザーを利用)。光を絞って焦点付近で加工する一般的なレーザー加工機ではどうしても切断面は斜めになりますが、当社機は水ジェットでレーザービームを誘導しながら加工するためストレート性の高い切断面となります。熱影響を抑えるとともに、水ジェットによる高効率な加工屑除去も可能になります。当社が長年培ってきたモーションコントロール(位置決め)、高応答性による高速・高精度加工、迅速なアフターサポート体制もウリです。繰り返し位置決め精度は±0.001㍉と一般的なレーザー加工機より10倍高い精度です」

切断板厚は20㍉以上、穴径0.1㍉も

――主な用途は。

「半導体分野を中心に航空機(タービンブレードの冷却穴)、切削工具(PCDcBN工具のチップ先端部)、医療(ステント)分野の脆性材部品の切断と穴あけです。切断可能な板厚は20㍉以上、穴あけの最小径は0.3㍉(板厚5㍉)。薄い材料なら穴径0.1㍉も可能です。当社に寄せられるレーザー加工機のお問合せは、8割は半導体分野のお客様からです」

――売れ行きは。

1億円以上する機械ですから数が出るものではありませんが、半導体分野のお客様からの引合いはすごいものがあります。というのは半導体ウェーハの材質はシリコンからより硬くて加工しにくいSiCGaN(窒化ガリウム=パワー半導体の材料として注目される)にシフトし実用化も進んでいます。今後は酸化ガリウム、ダイヤモンドへの移行も考えられます。ウェーハ材料の進化とともに各半導体製造装置の構成部品の材質も変わり、それらの加工に対応しなければなりません」

――今後どう取り組まれますか。

「当社本社のLUMINIZERセンターにLB300LB5002台ずつ、またフェムト秒レーザー加工機のLF4003台の計7台のレーザー加工機を設備し、お客様のテストカットのご要求に応えます。LASER事業部としては2年前からJIMTOF(日本国際工作機械見本市)、Photonix(光・レーザー技術展)やSEMICON Japan(半導体製造装置・材料展)といった展示会に出展しています。今後は加工事例をさらに充実させ、展示会出展をもっと増やしていくつもりです。なお、今年のJIMTOF2024SEMICON Japan2024にレーザーの加工事例を展示予定です」

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東京・目黒区にある本社のLUMINIZERセンターに設備するウォーターガイドレーザー加工機「LB300」(手前)とフェムト秒レーザー加工機「LF400」(奥の2台)。丸みを帯びたフォルムは英国人デザイナーで構成するデザイン部門の最初の仕事という。