インタビュー
EXOTEC NIHON 取締役社長 立脇 竜 氏
- 投稿日時
- 2022/08/23 16:28
- 更新日時
- 2024/08/19 13:20
仏の物流ユニコーン、日本でも躍進
これは日本の物流における「黒船」となるのではないか。展示会で、EXOTECの自動化システムを見て思わずそう唸った。2015年の設立から7年で9カ国に進出した、フランス工業界初のユニコーン企業。売上は21年度に約1・8億ユーロ(約240億円・22年8月16日時点)に達し、今年度はさらに倍増を目指す。同社が提供する、搬送ロボット群が3次元的に移動するピッキングシステム「Skypod」の強みは何か。20年に設立された日本法人EXOTEC NIHONの立脇竜社長に聞いた。
―会社概要を教えてください。
「EXOTECは2015年に仏・リールで設立されました。仏工業界で初のユニコーン企業として注目されており、欧州を中心に米国にも拠点があります。日本には20年にEXOTEC NIHONを設立。従業員は世界で約400人ですが、今年中に600人に増やす計画です。過去3年の売上は前年比でおよそ倍増を続けており、本年も同じ水準を予定。日本も近いレベルで成長中で、技術をベースにアグレッシブに市場を攻めています」
―展開するピッキングシステム「Skypod」の概要は。
「Skypodはラックからロボットが専用ケースを3次元的な動きで取り出し、ピッキングステーションの作業者へ搬送するシステム。高さ12㍍まで拡張可能な専用ラックと搬送ロボット、それにピッキングステーションやコンベヤなどの周辺設備で構成されます。オーダーが入るとロボットがラック内を水平・垂直移動し、注文に応じたケースをラック外のステーションまで自動で搬送。ピッキングされたオーダー品はコンベヤで出荷場へ搬送されます。これらのシステムは自社製造で、設備構成などコンサルティングまで一貫提供します」
―Skypodはロボットがラック内外を3次元的かつ機敏に動くのが印象的です。
「展示会でご覧いただいたと思いますが、実はあれは実力の半分程度。実際は30㌔までのワークを搬送しつつ、最高毎秒4㍍の速度で走行します。柵は必要ですが、これほど機敏に自律走行するロボットは他にないのでは。またエリア内は数百台のロボットが走りますが、それぞれの最適経路を我々のWCS(倉庫制御システム)が指示し、衝突を防ぎます」
―日本のサービス体制は。
「品川本社とサービスセンターが京都にあります。また本社にコントロールセンターを設け、ユーザーの現場で動くシステムを24時間遠隔監視。異常の約8割は遠隔で対処できます。こうした24時間サポートはサービス契約の一環で、導入後は10年間にわたり98%のKPI(ここでは稼働率)をお約束します」
―稼働率98%の10年保証は初耳です。
「要するに『ハードを売ってその後をユーザーに一任』ではなく、本当に倉庫の自動化意欲が高い企業に対し効果をお約束するというビジネスモデルです。Skypodシステムは1ステーションあたり毎時400行オーダーの出庫が可能ですが、導入後もラックやロボットの追加で能力や格納数を増やせますし、逆に規模の縮小や移設も簡単。昨今、特に小売ではオムニチャンネル化が進み、『今日の物流が明日通用しない』という現象が現実に起きています。そうしたなか、固定的な自動化設備では物流がボトルネックとなり、新たなビジネス展開を妨げてしまいます」
Skypodシステムの一例。専用ラックと、その内外を高速で自律走行するロボット群、ピッキングステーション、コンベヤなどで構成される。多関節ロボットを用いた自動ピッキングシステムSkypickerも提供を始める
■マテハン業界のTOP10へ
―Skypodの利点を色々伺いましたが、中でも立脇社長自身の考える最大の特長は。
「一言で表すと圧倒的な効率化。Skypodへの投資に対し、効率アップというリターンを確実に提供できます。ピッキング作業者の賃金次第ですが、目安として5~6年で投資回収が可能です。またピッキングは労働力の集約で効率化できると思われがちですが、実は注文から出荷までのリードタイムは人手を投じてもあまり短縮できません。ピッキング以外の工程がボトルネックとなるためです。しかしSkypodシステムは、WMS(倉庫管理システム)に注文が入ると即座にロボットがオーダー品を搬送。注文から出荷までのスピードを段違いに短縮します」
―そのことがユーザーにもたらすメリットは。
「倉庫全体のパフォーマンスが上がり、小売ビジネスの幅が広がります。例えば季節限定のプロモーションを増やしたり、あるユーザーは自宅で、あるユーザーは店舗で商品を受け取るという配送のオムニチャンネル化にも対応できます。要は物流がネックで実施できていなかった、様々なビジネス展開が可能になるということ。実際に、店舗向けと個人向けの配送を同じラインで流しているユーザーもいます」
―日本の足元の景況感は。
「引き合いは非常に好調。ファーストリテイリング様をはじめ実績も順調に増加中です。専門家の採用や、エンジニアリングから設置までを完結できるパートナー企業との協業でニーズに応えていきます。またEXOTEC全体では2025年にマテリアルハンドリングメーカーとして世界のトップ10に入ることを目標に掲げています。スピード感や導入後の満足度、それに伴う横展開の状況を鑑みても現実的な目標です」
―9月には国際物流総合展も開催されます。どのようなPRを予定しますか。
「Skypodと、日本では初披露の多関節ロボットを用いたピッキングシステム『Skypicker』を組み合わせたデモをお見せします。Skypickerは自社開発の3Dビジョンを搭載。事前登録なしで対象物を検知し自動ピッキングを行います。様々な理由で倉庫の自動化をためらう方に、認識を変えてもらうのが出展の狙いです。日本法人を立ち上げた以上、日本企業のROI(投資に対する利益率)への貢献が我々の使命。Skypodはその実力を備えています。多くの日本企業は海外の新しい技術に対して慎重ですが、そのビジネス環境をいかに壊せるかが勝負ですね」
多関節ロボットを用いた3 Dビジョンピッキングシステム「Skypicker」。ソフトウェアに自動学習機能を搭載しており、実際のシステムではロボットが商品を「確実にピッキングできる商品」「ピッキングできるかもしれない商品」「ピッキングできない商品」の3つのカテゴリに分類。ロボットでのピッキングに失敗した商品は人手でのピッキングレーンに回すなど、自動学習で精度を上げていく。
(2022年8月25日号掲載)