インタビュー
ダイフク 代表取締役副社長(COO)副社長執行役員 寺井 友章 氏
- 投稿日時
- 2025/09/29 15:40
- 更新日時
- 2025/09/29 15:47
30年に売上1兆円へ、海外事業強化と技術革新の両輪で
2027年に売上高8000億円、30年に1兆円――。野心的な数字を掲げるダイフクは、近年経営体制の見直しも進めてきた。今年1月、半導体工場向けのシステムを手掛けるクリーンルーム事業部を率いる寺井友章氏が代表権を持つ代表取締役副社長(COO)へと昇格。代表取締役社長の下代博氏との2人代表体制へと移行することで、変化の激しい事業環境に迅速に対応できる体制を整える。為替変動や関税問題を感じさせない力強い成長を続ける同社の強さの背景と今後の展望を寺井COOに聞いた。

――1月にCOOに就任されました。長年、半導体工場向けのクリーンルーム事業を担当してこられましたが、その経験をどう生かされていますか。
「半導体業界は投資サイクルが非常に速く、大規模案件が突然舞い込むことも珍しくありません。私自身、台湾や北米で半導体工場の立ち上げを経験しましたが、納期に合わせて数百人規模の人員を確保しなければならない場面もありました。国内外のリソースを総動員し、現場を動かす。そうした現場経験が、全社を統括する上で大きな財産になっています」
――日本の大手半導体工場にも関わったと伺いました。
「はい。国内では久しぶりの大規模案件だったため、海外人材に加え、自動車や一般製造業・流通業向けの事業部にも協力を呼びかけ、工事に加わってもらいました。事業部を越えた連携で乗り切れたのは、ダイフクならではの強みだと思います」
――世界経済は混乱の只中にありますが、貴社業績は好調に推移しています。
「当社はかねてより『地産地消』体制を敷いてきたこともあり、為替や関税のリスクの影響は抑えられています。世界各地に工場があるため、状況に応じて生産を柔軟に振り分けられることも強みです。また、ここ数年全社を挙げて取り組んできた利益改善が海外子会社でも成果を上げ、国内の利益率を超える会社も出てきています。これは、5年、10年の長期スパンで少しずつ『文化』を築いてきた成果だと思います」
――改善活動について具体的に。
「設計や製造段階だけでなく、据え付け工事の効率化も進めました。工事段階のコストは費用全体の約半分を占め、大部分が人件費です。いかに効率よくプロジェクトを進め、工事を終わらせるかが鍵となります。クリーンルーム事業を例にすると、大型案件が続いた台湾や韓国で地道に施工改善を積み重ねノウハウを蓄積してきた結果、ようやく利益改善という目に見える成果として表れ始めています。また近年、世の中では工事が遅延するケースも見られますが、当社なら計画通りに立ち上げられるという信頼にもつながっています」
■黒子から社会インフラへ
――昨年には2027年に売上8000億円、30年に1兆円の目標を掲げました。
「今年の受注目標が年間7000億円なので、今後2年で1000億円上積みする必要があります。このギャップを埋めるため、インドや米国市場での事業拡大などに取り組みます」
――半導体領域ではアドバンストパッケージなど新技術も拡大要因に。
「そうです。半導体の高性能化に伴い、2.5D/3D実装やチップレットなど、従来にはない工程が生まれています。まだ規格も定まっていない状況ですが、従来のウェハーサイズ(大きくても直径300ミリメートル)より大きな600ミリ角のガラス基板の活用などが模索されています。そのため、搬送重量は10~20キログラムから30~50キログラムほどに増えると考えられており、対応する天井走行式の搬送台車(ビークル)の開発が不可欠です」
「また、アドバンストパッケージでは、前工程に匹敵するレベルで振動やパーティクルの発生抑制が求められるケースもあります。当社は前工程で培った高度な制振・制御技術と、液晶パネルなど大物ワークを搬送してきた経験を掛け合わせ、顧客要望に迅速に応えていきます」

ダイフクが半導体工場に納めるクリーンルーム用搬送システム「クリーンウェイ」。AIを活用することで、総延長200キロ、1万台を超えるビークルを24時間365日制御する
――イントラロジスティクス領域では完全自動化にも言及されていますね。
「はい。特にピッキング作業は大きく人手に依存しており、24時間稼働する物流センターでは人材確保が難しい。AIで形状を瞬時に認識し、ピッキングが難しい様々な形状や材質の商品でも確実につかめるロボットを開発中です」
――ピック&プレース領域では協業も進めていますが。
「協業することで取り組みを加速化してきました。また、現在一般化しつつある多関節ロボットを活用したシステムだけが解ではないと思います。コストを抑えたシンプルなシステムの開発も独自に進めていきます」
――業界の困りごとを様々な形で支えていく。
「これまでマテハンシステムは消費者の目に留まらない『黒子』でした。しかし、半導体や自動車などの工場や物流センター、空港など当社のシステムがなければ物が運べない領域が少しずつ広がり、お客様だけでなく社会全体にとってもなくてはならないインフラとなりつつあります。社会インフラとしての使命を胸に、次の世代に当社の魅力をしっかり発信し、持続可能な社会の実現に貢献していきたいです」
研究開発拠点を東京・京都に新設
ダイフクは先端技術や新規事業の研究・開発と技術系人材獲得の強化のため、2つの研究開発拠点「東京Lab」(2026年1月開設予定)「京都Lab」(2025年11月開設)を新設する。東京LabにはAIやロボットなどの先端技術に強い人材や技術を集結し、要素技術開発を事業横断的に推進。京都Labではマザー工場である滋賀事業所と連携しながら各事業の研究開発を加速する。「AIやロボットは我々の事業において必然的なものになっていく。どこかと協業するにしても我々でも知っておかなければならない技術であり、Labを拠点に事業横断的に取り組んでいきたい」(寺井COO)。
(日本物流新聞2025年9月25日号掲載)