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インタビュー

ダイヘン 技術開発本部 インバータ技術開発部長 鶴田 義範 氏(EVワイヤレス給電協議会 事務局長)

投稿日時
2025/03/10 10:24
更新日時
2025/03/10 10:29

万博EVバスへの走行中ワイヤレス給電
車体軽量化や再エネ活用などメリット多数

2011年から研究開発を開始し、国内でいち早くEVへの走行中ワイヤレス給電の開発に取り組んできたダイヘン。大阪・関西万博では電力会社をはじめとした3社と共に技術実証を行う。「走行中にEVを充電できる」というと、EVユーザーの利便性向上という面が取り沙汰されがちだが、航続距離の問題解消や車載バッテリーの容量削減によるコストの削減、再エネの最大活用にも繋がるという。ワイヤレス給電技術の社会実装を目的として2024年6月に同社が幹事会社の1社として設立したEVワイヤレス給電協議会で事務局長を務める同社の技術開発本部・鶴田義範インバータ技術開発部長に聞いた。

――万博会場で関西電力とOsaka Metro、大林組と貴社による4社で「走行中ワイヤレス給電」の技術実証を行われますが、その概要は。

「万博会場内で運行するEVバス20台のうち6台に走行中ワイヤレス給電技術で充電する運用を考えています。当社が給電技術および装置を開発し、電力マネジメントを関西電力、バスの運行管理をOsaka Metro、道路の耐久性確認や送電コイルの埋設工事を大林組が担います」

万博ダイヘン_工事現場.jpg

万博会場内 送電コイル埋設工事現場

――EVワイヤレス充電について詳しく教えてください。

「道路に埋設した送電コイルから車体に取り付けた受電コイルへケーブルを使わずに非接触で電力を送り、EVを充電する技術です。当社は2011年から開発を始め、16年にAGV用として市場投入しました。本技術は、溶接機のインバータ技術や変圧器の磁気回路の設計技術など自社の要素技術を組み合わせて開発しました。送電コイルと受電コイルの間に磁界を発生させ給電するしくみで、プラグイン方式と同等レベルの高い伝送効率を実現しています」

「また、走行中充電と聞くと『すべての道路に埋設しなければならないのでは』と思われることが多いですが、東京大学の藤本研究室で行われた調査によると、高速道路では全体の7~10%程度、一般道路では信号の手前30㍍の地点にのみ設備を埋設すれば永久に走行できるという結果が出ています」

――走行中に充電できる、となるとすぐに思いつくのはEVユーザーの利便性向上ですが。

「それもありますが、それ以上に多方面のメリットに目を向けてもらえたら。まずは車載バッテリーの容量を減らせること。走行中ワイヤレス給電では常に“走りながら”充電されるため充電作業なしで走り続けることができ、航続距離問題は解決。さらに車体に大容量のバッテリーを設置する必要も無くなるためEVのコスト低減にも貢献します」

「また、再生可能エネルギーの最大活用にもつながります。現状EVは昼に走り、夜間に充電する運用が一般的なため、夜間の電力消費が急激に高まり電力系統が不安定になる『ダックカーブ現象』が発生する可能性が高くなっていました。しかし走行中ワイヤレス給電では、太陽光発電等の再エネが発電される日中に“走りながら”充電できるため、蓄電池等を介さずに再エネをダイレクトに活用することが可能です」

万博ダイヘン_ワイヤレス充電システム.jpg

走行中ワイヤレス給電のしくみ

■来年は高速道路で実証

――今回の技術実証で着目する点は。

「走行中ワイヤレス給電の認知度向上および、運行中の充電電力データ収集・解析による課題の洗い出し・改善が万博会場での技術実証の目的です。また、大林組との協業領域になりますが、半年間の走行による道路や機器の耐久性についても検証します」

――社会実装となった場合、道路への埋設となると省庁との連携も必要になりますね。

「日本の道路は埋めてよいものが細かく決められており、ワイヤレス充電の装置はまだ分類すらされておらず、法整備はこれから。私が事務局長をしておりますEVワイヤレス給電協議会には、オブザーバーとして経済産業省、国土交通省、環境省に入っていただいており、省庁とも連携し社会実装への取り組みを推進しています」

――万博終了後のマイルストーンは。

「次はNEXCO東日本と共に高速道路の一部を使った実証を行います。万博は走行中ワイヤレス給電の社会実装に向けた重要な通過点の一つとして考えており、今後も取り組みを強力に推進してまいります」



(日本物流新聞2025年3月10日号掲載)