インタビュー
入江工研 執行役員 兼 部長 信安 勇二 氏
社内コンテでAIアイデア競う
- 投稿日時
- 2026/01/22 14:47
- 更新日時
- 2026/01/23 10:25
翻訳ツールで即時対応の速度アップ
現場のデジタル化推進の動きや生成AIの普及により、巷にあふれるように増えたAIを活用したサービスやシステム。数多の提案の中から、なにを選べばいいのか迷ってしまうのが実情ではないだろうか。社内の「AI活用企画コンテスト」を通して、AI翻訳ツールにより業務改善を行った入江工研の執行役員兼品質保証部部長・信安勇二氏は「AI導入は少し楽になる、小さな所からシンプルに始めればスムーズに進む」と言う。

執行役員 兼 品質保証部部長・信安勇二氏
高度な加工・溶接技術や真空技術に強みをもつ入江工研(東京都千代田区)は1966年創業の老舗企業。半導体製造分野を中心に真空バルブやベローズなど高付加価値製品を提供する研究開発型企業だ。
同社がAI活用による業務効率化に目を向けたのは、入江則裕社長と当時の執行役員が自らAIのプログラミングを学んだことから始まる。社内でAIツールを一から構築するのではなく既存のAIを活用する方法が合うと判断し、2022年に「AIリテラシーの向上を図る社員教育」をeラーニングで実施。スマホのアプリを利用し、6カ月にわたり受講した。その集大成として23年の夏に「AI活用企画コンテスト」が開かれた。翌年にも同様の取り組みを行い、最終的には25%の社員が参加した。「社内コンテストだが東京国際フォーラムの会議室を借り、賞金も準備した」(経営企画室広報部・荒木雅之氏)と本気ぶりがうかがえる。複数人でチームを組み6チームが発表。評価項目は導入の実現性や効果、プレゼン資料の完成度や熱意などで、経営幹部が採点した。その結果、チャットボットや図面活用による見積り提案、受注予測といったアイデアが上位3位に入賞した。
しかし実際に導入されたのは特別賞として選ばれた品質保証部・信安勇二部長が提案した翻訳AIツール「オンヤク」。「特別賞はコンテストの参加者からの票が最も多かった賞。学習済みのAIを使える点が魅力だった」(荒木氏)。AI教育を受けリテラシーを持つ従業員の観点で「実際に使える」と評価された。信安部長(以下同)自身も「周りは大きなアイデアを出していたが、実際の業務を抱えた中であえて小さく始める」ことにフォーカスしたと言う。
品質保証部では、真空ゲートバルブの生産・営業機能をもつ子会社である「IKC KOREA」との日常業務から緊急対応まで海外とのコンタクトが多い。しかし通訳の手配含め緊急対応が厳しく、言語の壁を越えるコミュニケーションの重要さが意識されていた。
「海外とのテレコン(遠隔会議)はこちらが話している間は向こうが理解できず、通訳を介して初めて理解できる。向こうは一分間くらい話しているが、通訳が翻訳すると15秒ほどになることも。ニュアンスや真意が伝わっているか気になっていた。翻訳ツールを導入すればコミュニケーションの理解度が深まり、通訳を待つ時間も短縮できる」。
導入時のサービスの比較ポイントは翻訳精度や使い勝手。また機密情報を話すため、内容が収集されないクローズドなシステムを求めた。「TeamsなどのWeb会議をしながら並行してプログラムを立ち上げるので、操作しやすさや機械工学分野といった専門用語が学習済みか、字の大きさなど細かな点もチェック。翻訳結果がCSVで吐き出せるため議事録も作れる」。候補を3社の企業に絞り、各社1カ月の無料トライアルを実施、「オンヤク」を選定した。「IKC KOREAの25人ほどの従業員や海外商談がある営業部や工場でも使い、使う規模に合わせたプランで選べた点も選定のひとつ」と最も合うサービスをじっくり選んだ。
■「言葉の壁」の躊躇なくし業務に専念
秘匿性と緊急性が重要となる品質保証では、トラブル発生時にその場ですぐ繋ぎ、何が起きているかを把握できることは非常に大切。言語の違いの「躊躇」をとっぱらうことで品質保証の業務に専念することにも繋がった。
副次的な効果としてコミュニケーションの活発化が起きた。「当社には自分の業務の動画コンテンツを作る独自の教育システム『守破離アカデミー』がある。IKC KOREAも参加しており、母国語の動画の視聴数がトップだったが、翻訳ソフトが浸透してからは徐々に日本語動画が伸びておりハードルが下がっている。自主的に外国語を学ぶ社員もおり、相互理解が進むのはうれしい」と語る。
製造業の中小企業がAIをスムーズに導入するポイントを尋ねると「AIに学習させるとかプログラムを組むなどから入ると難しくなる。人の業務をすべてAIに代えようとするより、既にあるもので今より少し楽にできないか、それで時間が浮けば新しいことに時間を割けるね、という感覚で。次は納品した製品の予知保全にAIを使えれば」と語る。

翻訳ツールで韓国の子会社とテレコン(遠隔会議)する様子
(日本物流新聞2026年1月25日号掲載)