タカラスタンダードは2025年1月、「ビジネスディベロップメント本部」を新設。110年以上磨き続けてきたホーロー技術を核に「宇宙プロジェクト」を始動した。2035年度からの事業収益化を見据える小森大社長に構想を聞いた。
――宇宙ビジネス始動という、世間を驚かす発表をされた経緯は。
「社長就任時から『国内』『海外』『新規事業』の3本柱で成長戦略を進めてきました。ある方から『新規事業といっても、その人材は本当にいるのか』と指摘を受け、はっとしました。当社はホーローを軸に質実剛健に歩んできた企業です。その強みは誇りですが、同時に思考が既存の枠に閉じてしまう危険もある。そこでビジネスディベロップメント本部を立ち上げ、7つの新規領域での事業化を検討する部署として、既存事業と同じ“格”に置きました。ただし飛び地ではなく、当社の技術アセットを起点とした新規ビジネスの創出を条件としました。宇宙は最も過酷な環境です。そこでホーローが高機能素材としての優位性を確立できれば、既存事業や他の新規事業にも波及する。社風そのものを変える可能性もある。実現困難に見える目標を掲げ、そこからバックキャストするムーンショットとして最適だと判断しました」
――具体的な取り組みは。
「フェーズを大きく2つに分けています。フェーズ1では、現在の高品位ホーローが宇宙空間で新用途転換できるかを検証していくことになります。宇宙環境を模した熱真空テストや、ロケット打ち上げ時の振動を再現する振動テストを実施し、宇宙環境でも機能を維持できることを確認しました。フェーズ2では、月面での月産月消を見据えています。月の砂『レゴリス』は主にガラス質の微粒子で構成されています。人工レゴリスを用い、真空環境下で太陽光を模した熱線による焼結実験も実施し、一定の成果を得ています。将来、月面の居住空間の素材を月で自給自足的に製造する可能性は十分あります」
■半導体・データセンターへの展開も視野
――研究は社内で活性化していますか。また事業収益化については。
「途方もない夢物語に見えるのは、私たちの短い時間軸で考えるからです。私が社長でいられる期間は限られています。しかし新入社員には40年の時間がある。その時間軸で考えたとき、2050年頃に月に100人が住む社会が実現していても不思議ではありません。このインタビューが月で行われているかもしれませんよ」
「また、これは別腹の予算投資ではありません。同本部内には既に収益化している事業もあります。宇宙プロジェクトは新規事業シナジーと既存事業の延長線上にある。研究者のモチベーション向上、今年6月完成予定の八尾市のR&Dセンターの活性化、すでに人材確保にも波及効果が出ています。さらに、研究で得られる知見は半導体やデータセンターの熱管理・絶縁分野、医療分野への応用が期待できます。2035年度に宇宙ビジネス単体での収益化が実現するかは不確定要素もありますが、7つの新規領域と既存事業への波及を含めた企業価値向上という観点では、決して冒険的ではなく、堅実な戦略と自負しています」
――実際に宇宙へ打ち上げる計画は。
「宇宙事業のスタートアップ企業のALEによる人工流れ星実証プロジェクト『Starlight Challenge』に協賛し、2028年度中にホーローパネルを宇宙へ打上げます。宇宙空間でのデータ取得、新機能付加ホーローの実証を行い、その成果を全ホーロー製品へフィードバックする計画です。110年続く『質実剛健』なDNAを、宇宙という過酷な環境で『幸福な突然変異』へと進化させたいですね」

レゴリスホーロー