連載
けんかっ早いけど人が好き Vol.97 岩貞るみこ氏(自動車評論/作家)
- 投稿日時
- 2025/05/23 14:21
- 更新日時
- 2025/05/23 14:29
ヨモギ餅のはず
新緑のきれいな気持ちのいい季節である。樹木の緑を見るとストレス値が下がるという論文もあるらしい。なるほど、好戦的で導火線の短い私は、顔の前に葉っぱでも貼り付けておくといいかもしれない、しないけど。

どこからどう見ても、ヨモギ餅なのに。
さて今回は、そんな新緑のきれいな季節にぴったりのヨモギ餅の話である。
先日、道の駅に似た地元の特産物を扱っている店に寄ったときのこと。真空パックに入ったヨモギ餅を見つけた。小さな大福くらいの大きさにまるめてあり、なんとも美味しそうである。隣には同じ形状のクルミ餅もある。私は悩んだ。クルミ餅も捨てがたい。しかし、季節は新緑の頃。先ほどまでクルマを走らせながら見ていたあの清々しい景色が目の前に浮かび、草の香りが脳内を駆け抜ける。そして私はヨモギ餅を選んだ。
ヨモギ餅には思い出がある。小学生のときに父の転勤に伴い埼玉に引っ越した。母と私は近所の土手を散歩中に、ヨモギを見つけたのだ。農家の出である母は金を掘り当てたかのように大喜びし、これでヨモギ餅を作ろうとなった。せっせと摘んで持ち帰り、すり鉢でごりごりとすりつぶすと部屋中に芳香が広がる。これだけでご飯3杯、いや、お餅30個はいけそうだ。出来上がったヨモギ餅はほかほかと温かくそれはそれは美味しかった。まあ、今、思うと、あの土手には犬を散歩させている人も多かったような。えっと、深く考えないでおこう。よく洗ったし。
さて、話を元にもどそう。先日買ってきたヨモギ餅だ。真空パックをやぶってとりだすと、ふにふにとやわらかい。どうやら焼かずにこのまま食べるタイプのようだ。そっと口元に運ぶ……のだが、ヨモギの香りがまったくしない。ヨモギ、けちったのか? いぶかしく思いながらかじると……ヨモギじゃない! あわててパックをひっくり返して裏にある原材料を見るとそこには「青のり」。あおのりぃ? なんという紛らわしさ、なんという違和感。この色、この雰囲気とくれば、ふつうヨモギ餅だろう。
ともあれ、美味しかったから許す。許すけれど表にしっかりと青のりと明記してほしい。だって青のりって食べた後、歯がとんでもないことになるんだもの。にっこり。
(日本物流新聞2025年5月25日号掲載)

岩貞るみこ(いわさだ・るみこ)
神奈川県横浜市出身。自動車評論のほか、児童ノンフィクション作家として活動。国際交通安全学会会員。最新刊に『こちら、沖縄美ら海水族館動物健康管理室。』(講談社)