連載
けんかっ早いけど人が好き Vol.92 岩貞るみこ氏(自動車評論/作家)
- 投稿日時
- 2025/03/11 15:31
- 更新日時
- 2025/03/11 15:33
情報アップデート
夏の酷暑の反動が冬に寒波としてやってきたように、雪の多い地域は大雪で大変である。私の住む東京も朝晩の冷え込みが厳しく、早朝にクルマを出そうとするとインパネに大きく雪マークが出て「路面凍結してまっせ」と教えてくれる。

もちもちした食感がたまらない、粟ぜんざい。
寒さが続くと恋しくなるのは甘いものだ。世の中はホワイトデーだ、チョコだ、キャンディだと盛り上がっているが、お菓子会社の戦略に乗っかり、嬉々として盛り上がる人たちを覚めた目で見るへそまがりの私は、異常に餡子が食べたくなる。この時期の小豆の甘さは一口食べると平和の光が降り注ぐほど美味しいのだ。できることなら、とらやの羊羹をひと棹、タテに持ってそのまま食らいつきたい。
そんな私の餡子渇望オーラを察した友人が、粟ぜんざいを食べにいこうと誘ってくれた。粟・ぜんざい? 恥ずかしながら私は、粟ぜんざいという存在を知らないまま生きてきた。私のなかで粟といえば、「作ったお米を強欲な大名に献上し、農民たちは粟と稗で飢えをしのいだ」の粟である。中学生時代の歴史の先生は貧しい農民の哀れを強調するべく、それはそれはまずそうに粟という食べ物を説明していた。以来、私は粟=まずい、と信じて近寄らなかったのである。その粟を使った粟ぜんざいなる食べ物。いざ、実食!
おおおおお! なんだこの、全女子が愛すること間違いなしの、もちもち感は。どうも使われているのは、もちあわというもので、ゆえにこのねっとりした食感のようである。社会の先生に刷り込まれた、ぱさぱさとして食べられたものじゃないという洗脳から一気に解き放たれた。同時に、先生のばかーっ! と大声で叫びそうになった。こんなに美味しいものを食べずに生きてきたなんて、人生をやりなおしたい気分である。
固定観念は恐ろしい。粟も、昔はぱさぱさで美味しくなかったのかもしれないが、その後、多くの方の努力によって美味しい食材に改良された(もしくは種類が違う?)のである。今の時代、情報があふれかえって取捨選択がむずかしいが、やっぱり情報アップデートは大切だ。温故知新の古きをたずねるは苦手だけど、新しきを知るはやらないと美味しいものを食べそこねて人生大損をするのである。

岩貞るみこ(いわさだ・るみこ)
神奈川県横浜市出身。自動車評論のほか、児童ノンフィクション作家として活動。国際交通安全学会会員。最新刊に『こちら、沖縄美ら海水族館動物健康管理室。』(講談社)