連載
けんかっ早いけど人が好き Vol.84 岩貞るみこ氏(自動車評論/作家)
- 投稿日時
- 2024/11/12 13:36
- 更新日時
- 2024/11/12 13:42
危険な香り
歩いていると、甘い香りが漂ってくる。金木犀だ。我が家のまわりでは、庭に金木犀を植えている家が多いのである。この香りを嗅ぐと、秋だなあと感じて空を仰ぐ。あれほど暑かった日々がうそのように、青い空が高く遠い。
ちなみに春に甘い香りを放っているのは、沈丁花だ。華やかな香りをふりまくこの二種類の植物の名前を、私は小学生低学年ころに覚えた。大人でも、どっちがどっちなのかわからなくなる人が多いなか、チューリップ、ひまわり、さくらの次くらいに正確に覚えたように記憶している。甘いお菓子を連想させる花の名だから覚えたい、という食い意地のはった動機なのだが。
甘いものへの執着は私だけではなく、熊にもある。それもおそらく私以上に強く。以前、海外の大自然のなかでキャンプするテレビ番組を見ていたらガイドの人が、テントに食べ物を持ち込まないようにと注意していた。特に甘いものはNGで、ズボンのポケットにうっかりキャンディやチョコレートが入っていないか確認する徹底ぶりだ。甘い果物の香りがするリップクリームもダメだそうで、リップクリームごときで熊に襲われたらたまったものじゃない。日本人は、衣服を洗濯機で洗うときに柔軟剤やらなんとかビーズやらと入れまくるが、あんまり甘い香りは、山中でのキャンプで大丈夫なのかしら。
危険な香りといえば、猫にラベンダーである。バイクで北海道に走りに行ったときは、ラベンダーを見つけては大はしゃぎしたものだ。生まれて初めて写真を撮りまくったら、のちにそれがブルーサルビアだと知って落ち込んだけれど。今でもポプリを鼻におしつけてふがふがと嗅いでは、いい匂いだとうっとりする。ところが、である。猫好きの方々には周知の事実らしいが、私はつい最近になって猫にラベンダーの香りは禁忌であることを知った。なんと、猫の肝臓や腎臓の細胞を破壊するというのだ。年配の猫や弱っている猫に嗅がせると一発でアウトになることもあるらしく、びっくりしたものである。
冬に向かって加湿器の季節になる。アロマオイルで部屋中いい香り……とは、お洒落女子の定番のようで贈り物としても好まれるらしいが、猫好きの人にラベンダーオイルは、どうか贈りませんように。
(日本物流新聞11月10日号掲載)
岩貞るみこ(いわさだ・るみこ)
神奈川県横浜市出身。自動車評論のほか、児童ノンフィクション作家として活動。国際交通安全学会会員。最新刊に『法律がわかる! 桃太郎こども裁判』(講談社)