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けんかっ早いけど人が好き Vol.77

あぶないオリンピック

パリ五輪が始まる。3年前の東京大会は新型コロナウイルス感染症で世界が右往左往し、受け入れ国だった日本の関係者の苦労は計り知れない。直接、関係していなくとも、医療従事者は感染者数の爆増を念頭に、凄まじいほどの準備と覚悟をしていたものだ(喉元すぎるとみんな忘れちゃうので改めて書いておこう)。

どさくさに紛れて紹介。新刊『こちら、沖縄美ら海水族館動物健康管理室。』(講談社)

選手にしてみても、会場は無観客。人生の大舞台なのに家族に見てもらうこともままならず、さぞや悔しい思いをしたことだろう。しかし、今回は違う。ぜひ存分にたたかい、これまでの成果を悔いなく発揮してもらいたい。そして、彼らが頑張れば頑張るほど私は苦境に立たされる。そう、仕事が手につかないのである。

日本とパリの時差7時間。さすがにリアルタイムで放送を追えるほどの体力はないが、しかし、朝になりテレビやパソコンの電源を入れると、輝かしい結果が報じられている(に違いない)。となれば、リモコンを片手に試合の様子をどこかの局で放送していないかと探しまくり、インターネットでも検索して見つけては繰返し動画を見つめ、さまざまな視点で書かれた記事を読みまくり、いつしかその選手の出身地からお祖母ちゃんとのエピソードから、好きな食べ物まで知ってしまうという恐ろしい状態になっている。

会社員ならそうはいかないのだろうけれど、フリーランスは自由だ。良くも悪くも自由すぎる。なまけるのも自由なのである。先月、新刊を出して挨拶まわりも一段落した私は、まさに自由。次の本にとりかかるために資料本を買い集めはじめているのだが、すでに積読状態である。オリンピック期間は、おそらく原稿にも手が付かず、下手をしたら締め切りも飛ばしかねない。よって、この期間、新たな仕事は受けていない。私のスケジュール帳には一本、横線がびーっと入っている。で、このコラムの次号の締め切りっていつだっけ?(オリンピック期間のど真ん中)。もしも次号にコラムが載っていなかったら「岩貞のやつ、やりやがったな!」ということである。いや、私ではない、悪いのはオリンピックだ(そんなわけはない)。

だけど、選手のみなさんには、締め切りも忘れるくらいの活躍を期待している。人生には他力本願のお祭り騒ぎも必要なのである。

2024725日号掲載)

岩貞るみこ(いわさだ・るみこ)

神奈川県横浜市出身。自動車評論のほか、児童ノンフィクション作家として活動。国際交通安全学会会員。最新刊に『法律がわかる! 桃太郎こども裁判』(講談社)