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けんかっ早いけど人が好き Vol.75

こども本の森

先日、大阪に行ってきた。推しのライブスケジュールが発表されると同時に航空券とホテルを押さえたのに、その後、インターネットによるチケット争奪戦に全敗したのである。悔しいのでそのまま大阪入りだ。もちろん、ライブ会場に行って外から音漏れを聞く......というしみったれたことなどししししない。そんなことしてなるものかと、ひとり心斎橋をうろついた。それにしても大阪の繁華街である心斎橋は、銀座以上に外国人観光客の方でいっぱいで、ここはどこ?状態である。

アーチを描いたシンプルで美しい外観。

一日目は知人の営む食事処に行き、二日目はずっと行きたかった場所に向かった。中之島にある『こども本の森』だ。建築家の安藤忠雄さんが設計し寄贈したという施設で、本を貸さないこども図書館のような場所。そんなに大きな建物ではないものの絵本から漫画、ちょっと大きくなったこどもが読める書籍までが、美しく並べられている。すべて手に取って読めるとあって、大人気ゆえ入館制限が設けられ事前予約制になっているのだが、土日を予約しようとするとインターネットの申し込みサイトがあっという間に満席になる。どこもかしこも争奪戦だ。目がかすみ、反射神経や速筋(瞬発力を作り出す筋肉)が衰え始める年齢には厳しい世の中になったものだ。

こども本の森は、友人の編集者はこどもの目のあたりに尖った建造物があると言って納得がいかない様子だけれど、もともと安藤忠雄さんの設計に実用性はあまりないというのが私の勝手な感想なので、そこはまあ、それで。おそらくここは親といっしょにくるパターンがほとんどなので、親、気を付けてやってくれという気分である。

さて、さまざまなテーマごとにわかりやすく並べられた本は、どれもこれも読んで読んでとオーラを発していて90分の制限時間ではまったく足りない。足りないながらも私は、自分の本を探してみた。あら、一冊もない! こ、これは。児童ノンフィクション作家としてはちょっと悔しい。しかしこれはきっと、並べられる作品を書けという激励に違いない。ええ、いつか必ず、並べてもらいますとも!

2024625日号掲載)

岩貞るみこ(いわさだ・るみこ)

神奈川県横浜市出身。自動車評論のほか、児童ノンフィクション作家として活動。国際交通安全学会会員。最新刊に『法律がわかる! 桃太郎こども裁判』(講談社)