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けんかっ早いけど人が好き Vol.33

ロードノイズ

クルマから出される音のひとつに、ロードノイズがある。タイヤが路面に当たるときの音のことだ。タイヤは軽快に転がっているように見えても、実は路面にあたるときに音を出している。

子どものうちにクルマ好きにしてしまえばクルマ業界の未来は明るい?

タイヤのあるところにロードノイズあり。バイクも自転車もロードノイズが出ているのだが、キャリーバッグのタイヤからも当然、ロードノイズが出ている。ただ、キャリーバッグがクルマやバイクと違うのは、クルマなどはロードノイズが大きくならないようにとタイヤに掘られた溝のデザインなどが研究されているのに対し、キャリーバッグはそんな配慮が一切なされていないことだ。かったいゴムでつくられたタイヤは、アスファルトの路面を転がすと、コロコロどころかゴロゴロと耳障りな音が出る。

我が家は駅に向かう道沿いにあるため、それなりに人通りがある。誰かがキャリーバッグをひいて歩こうものなら、ゴロゴロという音が盛大に聞こえてくるのだ。この2年ほどはコロナで旅行がしにくかったため静かな生活を送れたものの、ここへきて再び聞く機会が増えてきた。

先日、私がいつものように家で仕事をしていると、遠くからゴロゴロとキャリーバッグの音が聞こえてきた。しかも音は重なるように二つある。どうやら二人で旅行のようだ。ゴロゴロ音が通りすぎるのをじっと待つのだが、音の主たちはなかなか進まず、音はゆっくりずっと続いている。なにをしているのだ、早く通り過ぎてくれればいいのに。だんだんいらっとしてきた。人間は不思議なもので、そうなると顔を見たくなってくる。どんなカップルがいちゃいちゃとゆっくり歩いているのか。ええい、見てやれ!

そっと窓に近づき気づかれないように外を見た。するとそこには3歳くらいの男の子が二人、おもちゃのクルマに乗り、足で蹴って進んでいるではないか。その少し前には、お母さんらしき人の姿もある。

なんだ~、そうだったのか。一気に気が抜けた。同時に私の心は菩薩のそれへと大変身だ。いいよいいよ、クルマが好きなんだね。ええ、楽しく遊びなさい。音なんていっくらだって出していいから。

あやうく未来のクルマ好きを二人、心の中で抹殺するところだった。危ない危ない。

2022925日号掲載)

岩貞るみこ(いわさだ・るみこ)

神奈川県横浜市出身。自動車評論のほか、児童ノンフィクション作家として活動。内閣府戦略的イノベーションプログラム自動運転推進委員会構成員