連載
けんかっ早いけど人が好き Vol.27
- 投稿日時
- 2022/06/23 11:18
- 更新日時
- 2024/08/19 13:21
ミイの髪型
私は背が高い。今も縮むことなく170センチを保っている。生まれたときは小さかったのに、小学六年生で168㌢に達する成長っぷり。今でこそ背の高い女性は多いが、40年以上前はそもそもそんな巨大な女は希少生物である。街に出れば周囲の人は、下から上までジロジロ見てくる。これが恥ずかしくて、小学生のころは背が高いことがいやでいやで仕方がなかった。
それが変化したのは中学生のときである。洋楽にはまった私は、背の高い利点を堪能することになる。ロックコンサートは総立ちになるため、背が高いおかげでステージがよく見えるのだ。その後もバイクに乗れば両足が地面につくし、満員電車でも簡単につり革につかまれる。令和の今では日本人女性の平均身長も伸び、市販の服は手も脚も長く作られるようになった。時代が私に追い付いてきた。高身長万歳である。
しかし先日、高身長では解決できない問題に出くわした。ミイの髪型事件である。フィンランドの作家トーベ・ヤンソンの小説ムーミンに出てくるミイは、頭の上にお団子を作っている(背が低いので少しでも高くみせようとする彼女の負けん気のような気がする)。毒舌でありながら真理をついた言葉にファンは多く、女性に人気のキャラクターである。ゆえに、ミイの髪型を真似する人も多い。そして、遭遇したのだ。このミイの髪型に。しかも映画館で。
昨今の映画館は、座席を事前に指定する。そして、私の前に座ったのがミイだったのである。頭の上に作られたお団子。このせいでスクリーンの一部が欠ける。しかも、じっとしていてくれればいいのに、なぜか私の前にいるミイはよく動いた。お団子が動くたびに、私も動かなければならない。小学生のころから視界が遮られる不便とは無縁な生活だっただけに、ものすごく気になって映画に集中できない。思わずつぶやいた。チケット代返せ!
そう思いつつ、ふと気づく。これまで私の後ろの席の人は、遮られる視界に「このデカ女!」と、悪態をついていたのではないだろうか。でもねえ、髪型は変えられるけれど、身長や座高は削るわけにはいかないのだ。でも、申し訳ない。なんの詫びにもならないけれど、一応、ここで謝っておくか。
(2022年6月25日号掲載)
岩貞るみこ(いわさだ・るみこ)
神奈川県横浜市出身。自動車評論のほか、児童ノンフィクション作家として活動。内閣府戦略的イノベーションプログラム自動運転推進委員会構成員