連載
けんかっ早いけど人が好き Vol.17
- 投稿日時
- 2022/01/24 13:56
- 更新日時
- 2024/08/19 13:18
ていねいな暮らし
冬になると、地方に住む友人から段ボール箱が届く。毎年のお楽しみ箱である。中には、大根や白菜、里芋といった冬野菜がぎっしり入っている。すべて彼女が育てたもの。
とりわけ私が楽しみにしているのは、干しイモと干し柿。もちろん、サツマイモも柿も、彼女の畑や庭でとれたものだ。干し柿をつるすのは、ワラで編んだひもである。器用にくるくると稲ワラをねじり、柿のヘタからTの字に切られた枝に巻き付ける。ワラひもの両端に柿をひとつずつつけ、物干しざおにつるしていく。こうした手間暇をかけた手仕事に、いつもうっとりである。
今年は残念ながら、ワラではなく紐を使っていたのだが、丁寧な仕事ぶりには変わりない。自分で豆を育てて味噌をつくり、らっきょを育てて甘酢漬けを作り、小豆を育ててあんこを作る。とりわけあんこはびっくりするほどおいしく、私はひそかに「宇宙一おいしいあんこ」と呼んでいる。
そんな私は都会のなかで殺伐とした生活を送り、食べものは食欲が満たされればいいという日々。「食べたいということは、身体が欲しているから」を大義名分に、昼ご飯はチョコレートを大量摂取という時期もあった。ここ数年はさすがの私も健康志向が高まってタンパク質が大事だと気付いたが、その傾向は食品メーカーやコンビニがいち早くキャッチして、高たんぱく商品を続々と出してくれる。ずぼら人間には大助かりである。
私が一人暮らしを始めたころは、まわりの男性から「料理はちゃんと作っているのか」と今ではセクハラになるセリフを滝のように浴びせられた。そのころからふてぶてしかった私は「料理などアウトソーシングだ、そんなものに時間を費やしている暇はない」と、宣言していたものだ。人には得意不得意があるのである。そのように強がっていても、年に一度の友人からの段ボールを開けるたびに丁寧な暮らしぶりにうっとりする。日々の生活にあらゆる意味で時間をかけられる豊かさは、せつないほどうらやましい。
いつか、雪山の見える場所に住み、ゆったりとした時間を過ごすのが私の夢だ。とはいいつつも、ぼんやり物件を見ていると必ずコンビニが近くにあるか確認している。長年しみこんだ習慣は、やっぱり変えられないのである。
岩貞るみこ(いわさだ・るみこ)
神奈川県横浜市出身。自動車評論のほか、児童ノンフィクション作家として活動。内閣府戦略的イノベーションプログラム自動運転推進委員会構成員