連載
けんかっ早いけど人が好き Vol.15
- 投稿日時
- 2021/12/27 13:44
- 更新日時
- 2024/08/19 13:19
クリスマスケーキ
80年代のバブル真っ盛りのときもバイクで走りまわっていた私にとって、クリスマスに華やかな思い出はあまりない。ゆえにクリスマスというと家族と食べたクリスマスケーキを思い出す。私が子どものころ生クリームはまだなく、チョコレートコーティングに濃厚なバタークリーム、その上には緑色のアンゼリカ、銀色の小さな粒、そしてマジパンで作られた小さなサンタクロースがのせられていた。食べ物と思い出は強くリンクするもので、今でも素朴なバタークリームケーキを見ると、家族で過ごしたクリスマスが浮かんでくる。
30代になって、なにを思ったのか2年間ほどイタリアに留学した。イタリアといえばバチカンがあり、キリスト教徒も多い。12月に入ると街のあちこちにプレゼッピオと呼ばれるキリスト生誕を再現したミニチュア模型が並び、気分が一気に盛り上がる。24日のイブは教会にたくさんの信者が集まり厳かにミサが行われていた。聞き覚えのある讃美歌が聞こえてきたときはキリスト教でない私でも、胸の前で十字を切って平和を祈りたくなったものだ。
さて、イブにやたら盛り上がる日本とは違い、イタリアのクリスマスは25日が本番である。日本では正月に家族がそろうが、イタリアではクリスマスに家族が食卓を囲むのがならわしなのだ。「日本に帰らないならうちにおいでよ」。イタリア人の友人に誘われ、彼女の家族とクリスマスを過ごさせてもらうことになった。家庭料理のフルコースを食べたあと、マンマがクリスマスに食べるパネトーネという名のケーキを運んできたのだが、それは私の予想外の形をしていた。デザインの国イタリアらしからぬシンプルで丸いパンのよう。もちろんクリームはのっていない。中にはドライフルーツが入っていて、独特の香りとほんのりとした甘さである。
日本に帰ってきて25年以上たつけれど、今でもパネトーネを見つけるとつい買ってしまう。そして、食べるたびに友人家族を思い出す。私が日本にもどるとき、ぎゅっと抱きしめていつでも帰ってきなさいと言ってくれたっけ。来年はコロナが収まって、イタリアに会いに行けますように。読者のみなさんも、よいお年をお迎えください。
(2021年12月25日号掲載)
岩貞るみこ(いわさだ・るみこ)
神奈川県横浜市出身。自動車評論のほか、児童ノンフィクション作家として活動。内閣府戦略的イノベーションプログラム自動運転推進委員会構成員