連載
けんかっ早いけど人が好き Vol.115 岩貞るみこ氏(自動車評論/作家)
- 投稿日時
- 2026/02/25 14:53
- 更新日時
- 2026/02/25 14:55
命がけの家事
昨年発生したサウナ火災事故を受けて、我が家でもドアの点検を行うことになった。ドアノブを動かして正しくラッチボルトが動くかどうかを確認しようとしたのだが、そもそもうちにはドアがなかった。というか部屋がない。

築20年を超えると、あちこち壊れるので信用ならない。
いわゆる建売りの狭小住宅なのだが、あまりの狭さに工務店さんが苦心した結果、空洞のワンスペースのような家を建てていたのである。トイレにドアはあるけれど、小さな窓もあるから、いざというときはここから叫べばいい。トイレには水も、当然だがトイレもあるから、数日はなんとかなるだろう。心配するに及ばず! と洗濯物を干しに屋上に上がったとき、見つけてしまった。屋上の出入り口はドアではないか!
この寒空の下で洗濯物を干す間、もしもこのドアが開かなくなったらどうなるのか。私は脳内シミュレーションをしてみた。開かない→締め出し→屋上なので自力で降りられない→叫んでも誰もきてくれない場合。詰んだ。だめだ。凍死してしまう。
そうだ、スマホを持っていけばいいんじゃん! いざというときはスマホだ。そういえば、トイレのドア前に置いた箱が倒れて窓のないトイレに閉じ込められた人も、スマホで助けを呼べたと聞いたことがある。よし、シミュレーションをやりなおそう。
屋上からスマホで消防に助けを求める(凍死を避けるためなので許してほしい)→消防隊にはしごで助け出される→消防隊帰る→玄関の鍵がない→膝の抜けた小汚いジャージとスリッパ姿で玄関前に取り残される……やっぱり凍死だ。だめじゃん!
ということは。屋上にはダウンジャケットを着て靴も持っていくか? いや、鍵をポケットに入れておけば。でも、119番通報するのもいかがなものか。
あれこれ考えて、最終的に行きついたのは『ドアを閉めない』。そうだ、屋上のドアさえ締めきらなければ、締め出されることもないのだ。よって現在、ドアは、かちゃりと締まり切る手前で止めている。これなら寒風も部屋に入ってこない。ただ、風の強い日は風に押されたドアが、バーンと勢いよく締まりそうで怖い。雪山同様、家事には危険がつきまとう。いつも命がけなのである。
(日本物流新聞2026年2月25日号掲載)
岩貞るみこ(いわさだ・るみこ)
神奈川県横浜市出身。自動車評論のほか、児童ノンフィクション作家として活動。国際交通安全学会会員。最新刊に『こちら、沖縄美ら海水族館動物健康管理室。』(講談社)