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けんかっ早いけど人が好き Vol.114 岩貞るみこ氏(自動車評論/作家)

投稿日時
2026/02/10 15:53
更新日時
2026/02/10 15:56

星と月

子どものころは林間学校で山に行くと、空を見上げて「わあ、天の川!」なんてかわいらしく指をさしたことが私にもあった。しかし、今ではすっかり空を見上げることがなくなった。スーパームーンですら見ようとしない。そもそも東京の空は星がよく見えない。街の灯りやビルの明かりなどの光害があるからだ。

氷点下27度対応の寝袋さえあれば怖いものなし。

しかし、好奇心を失えば老化一直線だ。童心にもどり、「わあ、星!」といったときめきを思い出すべきではないのか。私は奮起した。いざ、行こう、天の川を見に!

星といえば冬の山だ。光害がない。気温が下がり大気が乾燥すれば透明度も上がる。これなら老眼気味でも見える。ただ問題もある。夜の山は、とんでもなく寒いのだ。星を見ていたはずが凍死する可能性もある、いや、笑い事ではなくて。ゆえに私は秘密兵器を持っていくことにした。冬山登山をやっていたころに入手した氷点下27度まで対応する羽毛の寝袋である。もちろん、手袋にマフラーに帽子にダウンジャケットのフルセット。

八ヶ岳までクルマを走らせ星観察ができる広場につくと、アルミシートと寝袋をかかえ真っ暗な道を歩いていく。懐中電灯がなければ蹴つまずきそうな道だが、これでこそ星がよく見えるというものだ。広場ではアルミマットを敷き、寝袋にもぐりこむ。めっちゃ暖かい。これなら落ち着いて星も見られそうだ。だんだん暗さに目が慣れてくると、その場所はぐるりと樹々に囲まれた素敵なところであることがわかる。こんな場所で星が眺められるなんてと悦に入っていたのだが、ふと気づくとなんか明るい。星と違う角度からスポットライトのようなもので煌々と照らされているのだ。見るとそこには、ほぼ満月に近い月が「はい、ごめんなさいよ」といわんばかりに照らしまくっているではないか。そんなことだから、もちろん天の川は見えない。

なんてこった。

あとで調べると星を見るには月齢というものがあり、月がほっそい三日月になる時期か、地球の反対側にいってしまう時間帯や季節を狙うのが定石らしい。そんなこと知らんがな。次は月齢を確認してから計画を立てなければ。だけど最近、物忘れが激しい。星を見たいと思ったことも忘れそうだ。大丈夫かな、私。



(日本物流新聞2026年2月10日号掲載)

岩貞るみこ(いわさだ・るみこ)

神奈川県横浜市出身。自動車評論のほか、児童ノンフィクション作家として活動。国際交通安全学会会員。最新刊に『こちら、沖縄美ら海水族館動物健康管理室。』(講談社)