連載
けんかっ早いけど人が好き Vol.111 岩貞るみこ氏(自動車評論/作家)
- 投稿日時
- 2025/12/24 15:17
- 更新日時
- 2025/12/24 15:19
気圧に注意
この夏の猛暑もあり、秋の紅葉は見事だった。仕事さえしていれば幸せな私も、さすがにこれは見に行かねばと八ヶ岳方面にクルマを走らせた。

JR鉄道最高地点。八ヶ岳の紅葉は見事でした。
バブルの頃の清里といえば、イチゴの形をした屋根のクレープ屋さんだのなんだのとキュートでポップでスイートな店たちに女子大生が押し掛け、それを目当てに男子学生が吸い寄せられたものだが、我々バイク乗りは駅そばのロッジに50人超えで押しかけ、宴会で長渕剛を全員で熱唱して盛り上がった翌朝は「朝練!」の声で飛び起きて峠を走りに行くという体育会系の思い出しかない。
そんな馴染みのある八ヶ岳エリアには、JR鉄道最高地点というものがある。標高1375メートルはかなり空気が薄いのだが、それに気付かず何年か前に高齢の両親を連れていったら、はーはー言って歩行速度が一気に下がりびっくりした経験がある。
さて、宿泊した翌朝。ふだん、仕事以外では面倒ゆえに化粧をしないのだが、日焼け止めだけは塗っている。同年代の友人が、(ババアが)なにもしないのは周囲に失礼で悪でしかないと、酒の席で力説したからだ。使っているのは、炎天下での仕事が多いその友人が肌に優しいと勧めてくれた、淡く肌色が入っているのもの。少し値が張るけれど、肌も気休め程度にきれいに見えるし、なかなか気に入っている。
手に取ると、チューブに入った日焼け止めはパンパンにふくらんでいた。このあたりは標高が高いのだ。はて、こういうときはなにか重要な注意点があったような……と思いつつキャップをひねる、と同時に私の記憶が明確にもどってきた。
気圧が低いところで、チューブを開けるべからず。
そうだった! と気づいたのと日焼け止めクリームがとぐろを巻きながら猛然とあふれ出してきたのは同時だった。うっそー! 慌てたところでクリームの噴出は止まらない。お高い日焼け止めクリームが目の前でただの粘状の物体になっていく。騒動が一段落したとき、チューブは明らかに軽くなっていた。ちーん。
しかし、こうして私はまたひとつ教訓を得た。人は家を飛び出しさまざまな環境に身を置くことで成長する。日々之修行である、と思うことにしよう。ちぇ。
(日本物流新聞2025年12月25日号掲載)
岩貞るみこ(いわさだ・るみこ)
神奈川県横浜市出身。自動車評論のほか、児童ノンフィクション作家として活動。国際交通安全学会会員。最新刊に『こちら、沖縄美ら海水族館動物健康管理室。』(講談社)