連載
けんかっ早いけど人が好き Vol.110 岩貞るみこ氏(自動車評論/作家)
- 投稿日時
- 2025/12/10 14:02
- 更新日時
- 2025/12/10 14:28
トランプ大統領のヘリ
その日、私は東京都と神奈川県の県境を歩いていた。つまり多摩川のあたりである。すると、とんでもない爆音が空からふってきた。見上げると見たことのない4機の機影が近づいてくる。しかも、ブルーインパルスのような密接した超技巧的編隊である。
ドクターヘリの取材をしてから、私はヘリコプターにちょっとだけ詳しくなった。ヘリの免許とっちゃう?などと本気で考えた時期もあるほどだ。ヘリの機音を聞くと必ず空を見上げて東京消防庁か、などと確認しては悦に入っている。ゆえにそのときの飛行速度に驚いた。ただ事ではない速さなのである。

この中に、トランプ大統領と高市総理大臣が!
ヘリが飛行するときは目的地をカーナビのようなものにセットしたら一直線に飛んでいくのだが、眼下に目標物がある方が飛びやすいらしく、多摩川などの大きな河川に沿って飛ぶことはよくあることだ。遠ざかる機影群を見送りふたたび歩きはじめると、またもや、さらに聞いたことのない爆音がしはじめた。なんだこの音!
すると、地上からでもわかる明らかに大きな機体が3機、向かってきた。そしてほぼ私の真上を通過していく。飛行ルートは先ほどの4機と同じ南東。あちらにはなにがあったっけ。羽田空港か? 私は思わずスマホカメラでシャッターを切った。写真には、3つの点がぽつぽつと映っているだけだったけれど。
家にもどりニュースを見るとその時、来日中だったトランプ大統領の専用ヘリであるマリーン・ワンが、高市総理大臣を載せて都内の米軍基地から横須賀基地へ向かったと知った。なにい! 私はあわててスマホを取り出し、真ん中の点を拡大してみた。こ、これは紛れもなくシコルスキー社製のヘリではないか(マリーン・ワンは大統領を載せて飛ぶときのコールサイン)! ということは、一機めは露払い、後ろは護衛。そして、トランプ大統領と高市総理大臣が、私の真上を通過したということか。そんな至近距離を!
モータージャーナリストを始めたとき師匠から「タイミングの悪いやつはこの仕事に向かない」とさんざん言われていた。そして師匠曰く、私はタイミングがいい奴らしくずいぶん褒めてもらったものだ。そして今回も。師匠、相変わらず、もっています、私!
(日本物流新聞2025年12月10日号掲載)
岩貞るみこ(いわさだ・るみこ)
神奈川県横浜市出身。自動車評論のほか、児童ノンフィクション作家として活動。国際交通安全学会会員。最新刊に『こちら、沖縄美ら海水族館動物健康管理室。』(講談社)