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けんかっ早いけど人が好き Vol.109 岩貞るみこ氏(自動車評論/作家)

投稿日時
2025/11/28 10:37
更新日時
2025/11/28 10:40

自分の意思で移動したい

2年に一度のクルマの祭典、ジャパン・モビリティ・ショー(JMS)が開催された。以前はクルマだけのモーターショーだったのに、今は移動全体をどうするかという時代に入っている。フランスでは何年か前に、自動車省みたいなところがモビリティ省に名称を変更していたっけ。

スズキのMOQBA(モクバ)。階段すら登れるってすごくない?

世界で一番の勢いで高齢化を突き進む日本にとって、移動の確保は人生を左右する。ただ、移動困難者は年寄りだけではない。運転免許を持たない若年層にとっても死活問題だ。雪国に住む知人の息子君は、小学一年生のときから雪の降りしきる道を片道40分もかけて登下校している。歩いて行ける彼はまだいい方らしい。一度、下校風景を見せてもらったら、マイクロバスやタクシー(!)が迎えに来ていた。もちろん、自治体の手配である。小学校を統廃合したため、徒歩で通えなくなった子どもたちをこうして通わせているというわけだ。

でもねえ。子どもにとって終業後につるむのが楽しいんじゃんと思う。学校という施設の外でわちゃわちゃやりながら人間関係を構築し、淡い恋心を育てるってのが青春じゃん? 授業が終わって校舎を出たらタクシーが待ち構えているってどこかのお嬢様みたいではあるが、やはりそれではつまらなかろう。っつか、こんな息のつまる状況で、ラブレターはいつわたすんだよ。彼らのバレンタインデーに幸あれと願わずにいられない。

さて、JMSである。クルマだけでなく飛行機やら、空飛ぶクルマみたいのやら、一人用の移動モビリティやら、それはそれは多岐にわたる移動道具が展開されていた。ぐるりと会場を見て回り、そして思う。やっぱり私は、誰かに移動させてもらうのではなく、自分の意思で移動したいんだなと。だって、思わず足を止めたのは、クルマじゃないけれど自分の意思と自分の操作で動ける乗り物ばかりだったからだ。特に、荒れた道や段差もなんのその系には強くひかれる。そう、人生の悪路も、ものともせずに私を前に進ませてくれるモビリティたちだ。

がんばれ技術者。私の足腰がたたなくなる前に、ぜひ、私の意思で好きなところに行ける道具を開発してくれたまえ。たのんだぞ。そして私は今日も体力づくりだ。えいえいおー!

(日本物流新聞20251125日号掲載)

岩貞るみこ(いわさだ・るみこ)

神奈川県横浜市出身。自動車評論のほか、児童ノンフィクション作家として活動。国際交通安全学会会員。最新刊に『こちら、沖縄美ら海水族館動物健康管理室。』(講談社)