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けんかっ早いけど人が好き Vol.104 岩貞るみこ氏(自動車評論/作家)
- 投稿日時
- 2025/09/10 13:25
- 更新日時
- 2025/09/10 13:32
マニキュア治療
お手々は、ぐー。
子どものころに教えられた、野菜を千切りにするときの基本である。キャベツでもタマネギでも具材を押さえる側の手はぐーにして指を切らないようにするのだ。ところが、ぼんやりやっていると、ぐーがだんだん開いて指を切っていることがある。それも薬指。いや、私だけではない。まわりでも「薬指って切っちゃうよね」という友人が続出しているので、これは間違いなく台所あるあるだ。

プロのヘアメイクさんは、乾かすために冷却スプレーを使うらしい。
なぜ薬指なのか。薬指は、指示が行き届きにくい指である。ためしに手を広げた状態から小指だけを内側に曲げてみてほしい。薬指まで曲がらないだろうか(たまに曲がらない器用な人もいるらしい)。そのくらいぼんやりした指なのである。薬指だから仕方がない。そう思っていたのに、このところの私は中指を切るようになってきた。ううむこれは、加齢による反射神経のにぶりなのか。先日もニンジンを千切りにしていたところ、あ、と思ったら中指をすっぱりと切っていた。包丁の感覚からして指が半分落ちたかと思ったが、そこは爪。爪本来の役目を見事に果たし防衛に成功した。しかし、身を挺して指を守った爪の被害は大きく中央あたりまですっぱり切れている。血は出ていないので、爪だけが切れるというプロの仕事ぶりだ。ただ、このままではなにかにひっかけて爪が半分はがれる可能性がものすごく高い。ぐふう、痛そう!
しかし、案ずるな、諸君。我が家にはこういうときのために、透明なマニキュアが常備されているのだ。これを塗って乾かせば、ああら不思議。爪はしっかり元通り。こうしておけば爪はぐいぐいと伸びてきて、最後は爪切りで切れば完全に元通りだ。というわけで、いつものように、傷ついた爪にマニキュアをべったりと塗った。ところがだ。マニキュアがぜんぜん固まらないのである。ずっとべたべたと柔らかく、触ると指紋が残りそう。原因は、この夏の尋常ではない暑さだ。暑いとマニキュアは乾かないのである。こんなところにも酷暑の影響があるなんて。
どうしよう、絆創膏を巻くのは煩わしい。なにもせず、ひっかけてぱっくり爪がはがれるのは、もっといやだ。早く爪、伸びないかなと、じっと見つめて念じるばかりである。
(日本物流新聞2025年9月10日号掲載)

岩貞るみこ(いわさだ・るみこ)
神奈川県横浜市出身。自動車評論のほか、児童ノンフィクション作家として活動。国際交通安全学会会員。最新刊に『こちら、沖縄美ら海水族館動物健康管理室。』(講談社)