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日研工作所、「削りのプロ」が挑む工場環境のリフォーム

投稿日時
2025/11/11 13:20
更新日時
2025/11/11 13:24

ナノクーラントに託すモノづくりと人づくり

高精度なツーリングで知られる日研工作所が今、工場環境の抜本的な改善に挑んでいる。長濱明治社長が「工場環境をリフォーム」と表現するナノクーラントシステムは、メカトロテックジャパンで大きな注目を集めた。
 
同システムは、らせん構造を持つ発生装置によって、1ミリリットルあたり1億4500万個(水道水によるテスト)というナノレベルの微細な粒子を水溶性クーラント中に発生させ、腐敗や悪臭を抑制する。開発のきっかけは、製造現場の切実な課題にあった。特にアルミニウム加工では、スラッジ(切り屑)が腐敗しやすく、強烈な悪臭が発生する。

配管に接続 ナノクーラントソケットのマシニングセンタでの使用イメージ

「夏場はオペレーターが大変苦しんでおり、まずツーリングに装着するタイプを開発しました」と長濱社長(以下同社長)は語る。「我々自身の工場で試そうとしましたが、自社工場ではアルミの加工は少なく、研磨加工が多い。そこで、研磨機配管に設置する発想が生まれ、新開発のソケットタイプで自社の工作機械のすべてに設置できるようになりました」。

鉄を削るためのハードウエア、すなわち「削りの道具」を追求してきたように見える同社。だが「削りにはハードウエアだけでなくソフトウエア(アプリケーション)とヒューマンウエアの3本の柱が重要です」と力説する。

「モノづくりに取り組む人が臭いや環境悪化で作業に集中できないなら、削りのために、その課題を解決するのも使命です。工具のクオリティーはもちろん重要ですが、人が働く環境のリフォームをしたかったのです」。

同システムは、社会課題の解決を目指すため、価格を低く抑えた。普及しても売上の大きな柱にはなりにくい。しかし、同社はこの製品を強力な戦略製品と位置付けている。「お客様のお悩みを、耳をそばだててお聞きする姿勢を表すブランディングツールとしています」と語る。

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長濱明治社長 ソケットタイプ(向かって右)とツーリングタイプを手に

この戦略は、同社の主力製品にも波及する。RP(黒錆)処理をした「黒のホルダ」もまた、錆びに強く、長寿命という側面に加え、「オペレーターの作業軽減」という視点を再認識し、「人にやさしいホルダ」というリブランドにつなげている。

開発の過程では、大手ユーザーに採用してもらうための定量的なデータ収集に苦労した。臭いセンサーの数値では説得力に欠けるため、ナノ粒子の実測値を揃えることに注力。また、小型らせん構造の水流をユーザーに見てもらうため、あえて覗き穴を設ける工夫も凝らした。

「同商品の良さがSNSで広がる経験もしました。我々は、これまでルート営業が多く、決まったお客様に提案しがちでした。また、ツーリングのようにズームインして切削性を訴求する製品から、ズームアウトしてお客様の課題を知り、変化に対応するソリューションを提案する中で、営業でのお客様に対する視野も広がりました。当社の営業も開発も、意識がリフォームされたのかもしれません」と笑顔を見せる。

「今後、研究によって加工改善につながることが示唆され、証明されるかもしれませんね。我々は刃物を冷やすアプローチしかしていませんでしたが、ナノクーラントでワークを冷やすと同時に、ワーク表面をナノバブルウオッシュすることで、刃物の寿命が延びたり切削面の面精度があがる可能性は十分にあります。環境改善のために開発しましたが、刃物による切削の加工精度改善につながるなら、これほどうれしいことはない」。

まずはアルミニウム加工を行う自動車加工業が多い中部地域から、工場環境のリフォームを始め、やがて世界に広げていきたいと意気込む。

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ナノクーラントユニットのイメージ

(日本物流新聞20251110日号掲載)

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